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オープン戦最下位は、最高の結末への伏線。名探偵ポアロはそう予感させてくれる 中江有里の「開け!本の扉」#12

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 3月。プロ野球はオープン戦シーズン。
 阪神タイガースの沖縄キャンプへ足を延ばして観戦した2戦、3戦は負け。
 その後も勝てず、0勝9敗。
 10戦目、ZOZOマリンスタジアムで現地観戦。海を背にした球場は晴れていても震える寒さだ。この気候で野球する選手たちだって寒いはず。カイロを握りしめ、声をあげて応援した。
 6-1で、待ちに待ったオープン戦初勝利! 冷え切った体に、熱いコーヒーが染み渡った。

 レギュラーシーズンに向けての調整試合となるオープン戦ならではの、かなりアグレッシブに見える選手の起用法にはどんな狙いがあるのだろう。
 試合後にネットにアップされる岡田彰布監督の「一問一答」のチェックは欠かせない。
 それは私にとって試合の勝敗より面白い。特に負けた試合は興味深い。
 負けて得られるものは、何なのか?

 芸能界に入る前に味わった2度の「負け」は忘れられない。
 中学2年の夏、1通の封書が届いた。
 お菓子メーカーのイメージガール「1次選考通過」のお知らせ。伯母が黙って応募したらしい。
 伯父が大阪の2次選考会に行こう、と誘う。行くつもりがなかったので何の準備もしていない。
 「俺が付き添うから」「受かったら東京へ行けるで」
 東京へ行ったらディズニーランドに行けるかも……数年前にできたばかりの「夢の国」と呼ばれたディズニーランド。いつかは行ってみたかった。
 淡い期待を抱いて向かった会場には、白やピンクのフリルワンピースを着た少女漫画に出てくるような子ばかりがいた。
 ポロシャツにジーンズの私は、大勢のフリルワンピースに怖気づいた。
 そしてオーディションから数時間後、私は大阪代表に選ばれた。

 「これで夢の国へ行ける!」

 最終選考会当日。場所は新宿のスタジオアルタ。当時放映していた「笑っていいとも!」のスタジオとして知っていた。
 会場入りして、メイク室にひとりの女の子が呼ばれた。自分もメイクに呼ばれるだろうと順番を待ったが、声をかけてもらえなかった。「まあいいか」とすっぴんで舞台に出た。
 優勝したのは、メイクを施してもらった子だった。
 ディズニーランドに行く気も失せて、大阪へ帰った。

 それから約1年後、ふたたび某雑誌のイメージガールのオーディションに呼ばれた。
 次こそ「夢の国」へ行けるかもしれない。
 東京での最終選考会前夜、選考委員のカメラマンとの面接があった。
 初対面の挨拶もそこそこに、こう言われた。
 「残念だけどあなたは、優勝しないんだ」

 最初から「負け」が決まったレース。2度もそんなレースに出てしまった。

 アガサ・クリスティーの名探偵ポアロシリーズは繰り返し読んでいる。
 特に副題に「ポアロ最後の事件」と付くシリーズ最終作「カーテン」はお気に入り。この作品を刊行後、クリスティーはこの世を去った。
 関節炎で自由に動けないポアロに代わって、親友ヘイスティングズが複数の殺人事件に共通する犯人Xの素性を追うが、ヘイスティングズ自身も新たな事件に巻き込まれていく。
 ポアロが「灰色の脳細胞」と呼ぶ抜群の洞察力は、ヘイスティングズにも予想できない働きを見せる。そして浮かび上がったXとは? シリーズを読み続けてきた私は結末に仰天した。

 ミステリーには三つの楽しみ方がある。
 一つめは、謎を解く楽しみ。二つめは、騙される楽しみ。三つめは、発見する楽しみ。
 犯人を知ったうえで読み返すと、緻密に張り巡らされた伏線を見つけられる。
 最初仰天した結末が「これしかありえなかったのだ」とわかってくる。

 ところで私が味わった2度の「負け」は、振り返ると人生の伏線のように思える。
 あの最終審査の前夜、「優勝しない」と告げたカメラマンはこう続けたのだ。
 「でもあなたは、良いと思うよ」
 その言葉は、2度の「負け」の谷底に突き落とされた私を奮い立たせた。
 最初から決まった「負け」なんか嫌だ。ちゃんと勝負して、勝ちたいんや。

 試合に勝ちたい。オープン戦とはいえ、その気持ちは同じ。
 2勝12敗1分け(3月21日時点)で、オープン戦の12球団最下位が確定した。しかし過去4年のうち3回は、オープン戦最下位のチームが優勝しているとか(例外の1回は昨年の阪神だったらしい)。

 2桁の負けは、3月29日から始まる長い物語(ペナントレース)の結末の伏線。岡田監督の「灰色の脳細胞」がきっと導いてくれるはず。そう信じている。
 ラストページには「連覇」の文字。
 そんなミステリーなら、何度でも読み返すで!