いじめられる子は悪くない 200パーセント悪くない
「尾木ママー!」
横田小の児童たちの呼びかけに「はーい」。教育評論家の尾木直樹さんが満面に笑みを浮かべ軽やかに駆けてきた。体育館は歓声に包まれ大きな拍手が鳴り響いた。
授業に先立ち、5、6年生は尾木ママからのアンケートに回答していた。「みんな色々書いてくれて、なるほどな〜と思いました。今日はみんなでそれを考えていきましょう」
同校は今年3月、創立149年の歴史に幕を下ろし、市内の2校と統合されることが決まっている。児童たちはそのことをどうとらえているのか?
アンケートでは、半数以上が「いいことだと思う」と回答していた。尾木ママは「『新しい友達ができるから』という積極的な意見が多かった。前向きでとてもいいことね」とニッコリ。そして続ける。
「でも『よくないことだと思う、寂しいから』と答えた人も。そんなふうに感じている子がいると知ることも大事。新しい学校作りでは、いろんな意見を出し合って、いろんなことに挑戦しながら頑張ってほしい」
次の質問の「先生や学校にしてほしいことは?」には、「いじめのない学校にしてほしい」という回答が多数を占め、いじめ問題に心を痛めている児童が少なくない様子が見えてきた。
尾木ママは「いじめはナイフで心を刺されるようなもの。『いじめられる側も悪い、いじめられて当たり前』なんて言う人がいるけど、100パーセント、いえ200パーセント、いじめられる子は悪くありません」とキッパリ。その上で、「いじめが起きたときにクラスや学校の中でブレーキがかけられる関係性や環境づくりが大切です」と指摘した。
自身も中学校や高校、大学で多くの教え子たちに向き合ってきた尾木ママは、教員たちに対しても優しい口調ながら厳しくこう伝えた。
「みんなの前で誰か一人を注意することは、その子をラベリングすることになる。絶対にやめてくださいね」
次に考える設問は「あなたは自分のことが好きですか?」。尾木ママは「自分を好き、自分が他人から必要とされていると思えることを『自己肯定感』と言います」と説明。国際的な調査で、日本はどの世代でも自己肯定感が低く、インドやアメリカ、中国が70%超えなのに対し、日本は約48%で最下位という現状を述べた。
児童へのアンケートでは「好き」「どちらかというと好き」がわずかに上回る結果に。尾木ママが「自分を好きじゃない理由を言ってもいいよ、という人は?」を尋ねると、何人かの手が挙がった。「いじめられる自分が好きになれない」「周りから冷たくされたりすると『自分が悪いんだ』と思い嫌いになってしまう」と、いじめなど周りとの関係で自己肯定感が低くなっているようだ。
「そう思ってしまうのはすごくよくわかります。でも先ほども言ったけれど、いじめられる側が悪いなんてことは絶対にないの」
尾木ママは会場を見回すと、今度は保護者や学校の教員たちなど、大人たちにもこう呼びかけた。
「自分のことが好きと思えることは、人生においてとても大事。誰かに愛されている、必要とされている感じることで自己肯定感は上がります。親御さんはギュッと抱きしめてあげる、先生たちは子どもたちに分け隔てなく触れ合うなど、子どもたちが『自分は大切にされている』と思えるように向き合ってあげてくださいね」
「やる気エンジン」をかけるには、まず得意科目から
休憩をはさんだ後半は、尾木ママからこんな質問も。「宿題をするとき、好きな科目と苦手な科目、どちらからやる?」。苦手な科目と答えた児童が多く、理由は「先に苦手な方をやってしまえば後が簡単に感じるから」「嫌なことが終わっているので楽になるから」。
尾木ママのオススメは、しかし、得意科目から取り掛かること。
「よくお父さん、お母さんたちから聞かれるの。『子どものやる気スイッチの入れ方を教えてください』って。でもね、やるスイッチってないのよ。あるのは『やる気エンジン』です」
そして尾木ママは「やる気エンジンのかけ方」として、得意科目から始めることを提案する。
「得意なことからやってエンジンがかかったところで、苦手科目もその勢いでやっつけちゃう。あとはいきなり長時間やろうとするのではなく、15分ごとに小さな目標を作り、こなしていく。やってみてね!」
アンケートの回答には「もっと子どもの夢を応援してほしい」という意見も。尾木ママが「夢はある?」と1年生に尋ねると、「プロ野球選手」「ピアニスト」という子もいれば、「ない」「そんなのないよ!」という無邪気な声も飛び交う。そんな元気な姿に目を細めながら、尾木ママはこんなエールを送った。
「夢は実現するかもしれないし、しないかもしれない。先のことはわからないけれど、今を輝こうという気持ちが大事。今その瞬間を輝いてたら、明日も、1年後もずっと輝いていけるの。がんばりすぎるとポキっと心が折れてしまうから、がんばりすぎず、しなやかに自分の力をつけていってね」
児童たちの感想は…
米谷華乃(かの)さん(3年)「他の国と比べて日本人が自分のことを好きじゃないというお話は驚きました。目指していることがうまくできないとちょっと自分が嫌いになったりすることもあるので、そういうことなのかなと思いました」
今井心偉(るい)さん(4年)「友達との関係などで『自分はどうやろ?』と見つめ直すきっかけになりました。新しい学校では自分から声をかけてみんなが楽しめるような雰囲気にしていきたい」