1. HOME
  2. 書評
  3. 「アフガンの息子たち」書評 難民児童の処遇巡る冷酷な判断

「アフガンの息子たち」書評 難民児童の処遇巡る冷酷な判断

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2024年03月30日
アフガンの息子たち 著者: 出版社:小学館 ジャンル:アジアの小説・文学

ISBN: 9784093567435
発売⽇: 2024/02/21
サイズ: 20cm/175p

「アフガンの息子たち」 [著]エーリン・ペーション

 東京を走る京王線で本書を読んでいると、隣の女の子が、足をぶらぶらさせながらこちらを覗(のぞ)き込んでいた。ピンクのダウンに茶色のショートブーツ。髪は綺麗(きれい)に結われている。彼女の澄んだ目を見ながら思う。もしこの子がアフガンに生まれていたら――。
 9・11をきっかけに始まったアメリカのアフガニスタンへの軍事作戦。20年続いたが、「心を寄せるべき」ニュースは、季節物の商品のようにくるくる変わるので、忘れた人も多いはず。でも、あの戦争の「成果」を背負う子どもたちが今でも大勢いることを、本書は知らしめる。
 舞台は、スウェーデンの難民児童の入居施設。保護者なしに国を逃れてやってくる児童が一時的に住む場所だ。主要登場人物は、アフガンから逃れてきた10代の少年アフメドら3名と、施設職員として彼らを世話する「わたし」。
 ここにいる児童たちは、成人年齢の18歳になると、移民局よりその後の行末(ゆくすえ)が決められる。判断は冷酷だ。どれだけ凄惨(せいさん)な経験をしていても、スウェーデンの暮らしを強く望んでいても、送還の即時執行が下される時がある。
 施設が職員に課す、たくさんの細かな規則をすり抜けながら、きらびやかなネイルの所長に偽善の香りを感じながら、「わたし」は子どもたちと距離を縮め、それゆえに自身の無力さに打ちひしがれる。
 人は、生まれる時も場所も決めることができない。それは逃れられない運命のようなものだ。でもその行き先を国家がここまで翻弄(ほんろう)していいのか。
 本書は、著者自身の就労経験をもとにしたフィクションだ。でも、だからこそ、読み手は想像力を駆使し、著者のいたリアルに迫ろうとする。
 もしあなたがニュースの「消費」に違和感を覚えているのなら、誕生日ケーキに目を閉じ願いをかけた、アフメドの運命を知らねばならない。
    ◇
Elin Persson スウェーデンの作家。1992年生まれ。移民局や難民支援施設勤務を経て本書で作家デビュー。