小説投稿サイト「カクヨム」を運営するKADOKAWAは、新たに有料サブスクリプションサービス「カクヨムネクスト」を始めた。無料で読めて当たり前というネットの世界で、読者がお金を払う仕組みはビジネスモデルとして成立するのか。
母体となるカクヨムは2016年にオープン。一般ユーザーが無料で小説を投稿・閲覧でき、アクセス数やコメントを多く集める人気作品が書籍化された例も多い。書籍編集者が新人作家を発掘する場としても機能してきた。
一方、先月13日にカクヨム内にオープンしたカクヨムネクストは、編集者の側から「仕掛ける」サービスだ。売り出したい新進作家の作品や、人気作家の実験的な新作などを、連載形式で配信する。サブスク料金は月額980円で、収益の約50%はアクセス数に応じて作家に還元される。
従来の投稿サイトでは、作者は作品が書籍化されることで初めてまとまった収益を得ていた。カクヨムネクストは書籍化を前提としなくても収益が確保されている。だからこそ、「既存の読者層や市場環境を考えると提案しにくかった企画も試せる」と、同社でライトノベルなどを手がける編集者の神長敬祐さんは話す。
実は、読者が作家を金銭面で「応援」する仕組みはカクヨム自体にも存在する。月額480~1700円の「サポーターズパスポート」を購入すれば、プランに応じた数の「ギフト」を毎月、任意の作家に贈れる。作家側はギフト1個につき、文庫本2冊分の印税相当額を受け取る。
「無料で読めるのにあえてお金を払ってくれる読者がいて、しかも年々増えている」と、カクヨムネクスト運営責任者の松崎夕里さん。「読者の応援したい思いを作者に還元するため、プラットフォームとしての仕組みをより整えていく」と話す。
「書き手も読み手も、ひとりでも多くの方にテキスト文化に参加してもらえる環境をつくるのが肝」と神長さん。「テキスト文化をもう一度盛り上げていけるんじゃないか。文字にしかない魅力を持続可能な形で楽しんでもらえる未来を実現したい」(田中ゑれ奈)=朝日新聞2024年4月24日掲載