ひとりでも「ノー」と言える。自分と対等な、しかし独立の「他者」として相手を認識する。そんな個人と個人が、横につながってできる「開かれた社会」を、政治学者・丸山眞男は求め続けていた、と著者はいう。
本書は、その生涯をとおして、思想形成から「思想の全体像」を描く。徳川時代の儒教、ファシズム、日本思想史の連続性と変化(古層)、天皇制などの研究を、時代状況の中で読み解いた。
著者は日本近現代史、部落史の研究者だ。丸山に多くを学んできたが、「部落問題をつくり出してきた社会のありよう」を問うことで、丸山と「接合」してきたという。
没後に公開された史料も踏まえて書かれた本書は、今後の丸山論の前提の一つとなるだろう。生誕110年の今年に、ふさわしい評伝が出た。(石田祐樹)=朝日新聞2024年5月11日掲載