- 女の国会
- 対決
- 両京十五日Ⅱ 天命
与党の国対副委員長を務めていた国会議員・朝沼侑子の毒死という衝撃的な事件を扱っているのが新川帆立(ほたて)『女の国会』だ。朝沼が死んだことで、直前に彼女を厳しく問いつめていた野党第一党の国対副委員長・高月馨は窮地に立たされる。女性初の首相になると将来を嘱望されていた朝沼が、そう簡単に自ら死を選ぶとは思えない。自殺であれ他殺であれ、よほどの事情があったのだ――と考えた高月は、政策担当秘書の沢村明美とともに真相を探ろうとする。
この作品では、第一章の沢村明美、第二章の政治部記者・和田山怜奈、第三章の地方議員・間橋みゆきという三人の主人公に高月馨を加えた女性たちが朝沼侑子の死の真相に迫ることになるが、それは政界の旧弊さとの闘いでもある。未(いま)だに女性首相が誕生せず、女性のいる会議は時間が長いなどと元首相が放言するような日本の政界で、女性をはじめとするマイノリティがどのように扱われてきたかを、事件の謎解きを通して著者は鋭く掘り下げている。
月村了衛『対決』は、ある医大が入試で、女子の点数を意図的に下げることで男子を優遇している――という情報を耳にした新聞記者・檜葉(ひば)菊乃と、その医大の理事としてマスコミ対策を担当することになった神林晴海の対決を描いている。
新聞社の社会部という男性優位組織で、さまざまな苦汁を味わってきた菊乃。一方の晴海も、セクハラやパワハラをうんざりするほど体験しながら、組織の風通しを良くするべく奮闘してきた女性である。後に続く女性たちのために現状を変えるという志は同じでありながら、二人はそれぞれの信念をかけて対決しなければならない。彼女たちのあいだに共感は生まれるのかという興味と同時に、現代のコンプライアンスの中で差別とは何かに戸惑う男性たちの姿も描かれている点に注目だ。
馬伯庸『両京十五日Ⅰ 凶兆』『両京十五日Ⅱ 天命』は、中国・明王朝の第四代皇帝・洪熙(こうき)帝の時代が舞台の歴史冒険小説。遷都の準備のため、首都・北京から南京に赴いた皇太子の船が爆破された。矢継ぎ早に刺客に襲撃され絶体絶命の彼を、昼行灯(ひるあんどん)と思われているが実は切れ者の捕吏、生真面目な下級役人、わけありの女医という面々が護衛しながら、陰謀の首謀者がいる北京へと向かう。
波瀾(はらん)万丈の十五日の旅を描いた、冒険小説史に残る水準の傑作だが、何故(なぜ)この作品が現代日本の女性がおかれた立場を描いた前二作と一緒に取り上げられたのか、不思議に思った読者もいるだろう。その理由は最後まで読めばはっきりする。そこで突きつけられるおぞましい史実が、本書の時代背景が明の前期でなければならなかった必然性を語っているのだ。=朝日新聞2024年5月22日掲載