少年時代から貨物列車に魅せられた著者が、50歳を超えて夢をかなえる乗車ルポ。「カネさえ積めば月にさえ行けるこのご時世に、乗ることのできない」列車と言われるとがぜん興味が湧く。
日本貨物鉄道の取材協力を得た著者は、貨物列車の乗務員室に乗り込む。一畳半ほどの広さに座席は二つだけ。運転士の右隣に座り出発する。
キーキーと音を立て走る車両からの風景描写も新鮮だが、素人では知らない事実が多く面白い。都内に貨物専用の隅田川駅があること、旅客路線を通るときは定時運行にひときわ神経をとがらせること。ネット購入商品が翌日届くのに不可欠な存在であることを学ぶ。
読後は貨物列車がぐっと身近に感じる。鉄道ファンでなくとも、著者の言葉を借りれば、少しだけ体内に“鉄分”が補給される。=文芸春秋・1980円(森本未紀)=朝日新聞2024年5月25日掲載