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実験的手法で恐怖に導く「ギミック系」ホラーの収穫3点

新鋭ホラー作家6人が競作、現代ホラーのショーケースに

 令和のホラーブームの特色として、インターネット文化との相性の良さがあげられる。ネットでの活動を経て書籍デビューを果たすという作家が、近年は増加傾向にあるのだ。『こわいものがうつる』(KADOKAWA)は、そんな現代のホラーシーンを反映したような書き下ろしアンソロジー。東京創元社の新人賞からデビューした上條一輝や、新世代作家の筆頭である芦花公園をはじめとして、動画配信者として活躍する藍峯ジュン、SNSでの怪談投稿が人気を集める皮肉屋文庫など、多様なルーツの作家たち6人が“恐怖の伝染”というテーマに挑んでいる。

 比較的オーソドックスな手法のホラー小説と、モキュメンタリー寄りの短編が混在しているのもいかにも今風だ。たとえば上條一輝「むこう岸から」は前者の代表例。オフィス内で相次ぐ連続不審死を、異変に気づいた主人公の視点から描いている。端正かつサスペンスフルな筆致で、迫りくる死の恐怖を扱った好短編だ。事故で息子を亡くした設計士の呪いを扱った皮肉屋文庫「死角の家」、教室に祀られている神棚の秘密が明かされていく藍上央理「さくらちゃんの神棚」も短編小説らしい構成をもった作品である。

 一方、藍峯ジュン「元警察職員に係る縊死事案」は、元警察官である著者が取材をもとに構成した実話系怪談。ある警察官が呪いによって自ら命を絶ったというのだが……。ラストにはリアリティと怖さを補強するための、内部資料が添付されていてギョッとさせられた。著者自身の日記を公開したという体裁の狐歪野(こわいの)ツッコ「あなあなた」や、ある町でこどもたちに起こった奇妙な現象の背景をモキュメンタリー的に描いた芦花公園「令和七年 水折町児童夜間覚醒事案報告」になると、虚構と現実の境界はいっそう曖昧になる。読者として気楽にページをめくっていたはずが、気がつくと事件の目撃者や当事者になっているのだ。多彩なアプローチが楽しめる、現代ホラーのショーケースのような一冊。

見えない世界とつながる体験、大胆な仕掛けの心霊小説

『オブラートに包まれた怪談』(サンクチュアリ出版)は、デビュー以来一貫して虚実のあわいに生まれる恐怖を探求してきたモキュメンタリーの旗手・梨の新作だ。これまでもウェブ空間やリアルイベントを小説と連動させるなど野心的な試みをくり広げてきたが、今回用いられているギミックはさらに大胆で恐ろしいものである。

 語り手である〈私〉は不思議な力を備えた人物。その力をどのように身につけたかを、家を訪れてきた客に向かって語るというのが物語の大枠だ。幼い頃から病弱でよく熱を出していた〈私〉は、父親に連れられてある一軒家を訪れる。そこで黒い液体を飲むように勧められるのだが、湯呑みに口を近づけると、揺れる水面には見知らぬ老婆の顔が浮かんでいた。思い切って呑みこんだ私の身体は、不思議なことにみるみる健康になっていく。あの黒い液体の正体は何だったのか。

 異物を体内に取り込むことと霊感の目覚めとを意外な形で結びつけたこの小説は、梨らしい静謐な怖さに満ちた心霊小説だが、〈私〉の身の上話はいわば序章にすぎない。物語の本編にあたる部分は、書籍に添付されているオブラート(誰かの顔が印刷されている)をコップの水に浮かべ、それを「受け容れる」という行為にこそあるのだ。もちろんこれは読者を恐怖させるためのギミックにすぎない。そうだと頭では理解していても、いけないものに触れてしまいそうで実際に試す勇気はなかった。〈私〉が切々と語る見えない世界と直接繋がってしまったような、何ともいえない不気味さが残る。

手がかりを繋ぎ合わせて謎を解くゲーム感覚のミステリ&ホラー

『人の財布~高畑朋子の場合~』(双葉社)の著者としてクレジットされている第四境界は、ARG(日常侵蝕ゲーム)と呼ばれる新しいタイプのゲームを制作してきた話題のクリエイター集団。少年院のウェブサイトに隠された真実を探る『かがみの特殊少年更生施設』や、使用済みの財布を実際に購入することからゲームが始まる『人の財布』などが代表作で、プレイヤーは与えられたストーリーをなぞるのではなく、主体的に謎解きに関わることでゲームの登場人物の一人となる。

 今回刊行された『人の財布~高畑朋子の場合~』は、そんなARG特有の面白さを盛り込んだミステリ&ホラー小説集だ。主人公がフリマアプリで見かけた黒い財布は4年前、行方不明になった少女の母親としてニュースに登場していた女性・高畑朋子のものだった。財布を落札した主人公は、中に残されていたレシートやクリニックの診察券、名刺などの手がかりから、朋子の人生に迫っていく。作中には手がかりとなるアイテムや朋子の記したブログなどの画像が掲載されており、主人公とともに謎解き気分を味わえるのだが、その先には少女失踪事件の意外な真相が待ち受けている。

 併録の「祭歌の国ハルヴァニア」は妻の奇妙な寝言を耳にした主人公が、その言葉の意味を探るうち、恐ろしい儀式の存在に突き当たるという民俗ホラー度の高い作品。想像していたよりもストーリー性が強く、しっかりと答えも提示されるので、推理や考察が苦手な私のようなタイプでも安心して楽しめた。黒い財布を模したブックデザインも遊び心がある。

 このようにギミックを凝らした作品が相次いで生まれる背景としては、先述のとおりモキュメンタリーの流行があげられるが、読書をとりまく環境の変化も要因のひとつかもしれない。それを物語の新しい形と見るか、小説の衰退と見るかは意見の分かれるところだが、令和のホラーシーンがさまざまな表現の実験場として機能しているのは、間違いがないようだ。