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すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 家族の思い出を書く。根底にある「怒り」と「自分好き」

岸田奈美さん(左)とすがちゃん最高No.1さん=篠塚ようこ撮影

>【前編】すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 きつい話もポジティブに書く「面白いのが一番かっこいい」

相手を消費しないかっこつけ方

――お二人とも家族についてのエッセイを発売されましたが、身近な人を書く難しさはありますか。

すが:岸田さんがエッセイを書き始めたきっかけは?

岸田:Facebookに友達に向けて弟のことを書いたのが始まりです。当時、ベンチャー企業に10年勤めていたんですけど、関わる人が増えれば増えるほど管理できなくて、みんなに迷惑をかけて、ほんまに自信をなくしてしまって。でも、もともとは両親から「奈美ちゃん最高No.1」って言われて育ってるんで、最高のはずの私がなんでこんな辛い思いしなあかんねんって思って。自分を取り戻すために、一番私が自慢できることを書こうって思ったんです。それが弟のことだったんですよ。

 根底は「怒り」なんですよ。弟はダウン症やからうまく喋れないし、仕事もみんなよりできない。でもすごく愛すべき人間で。たぶんそこに当時の自分も重ねて、みんなと同じようなことができなくて、ボコボコに怒られてるけど、「そんな悪いことかい⁉ 私もっといいところあるよね⁉」って怒りを面白さで隠して、書いたのが始まりでした。そしたら、みんなが「めっちゃいいやん!」って言ってくれて。その時、おかんが「好きに書いていいよ」って言ってくれたんです。その時の私の病みっぷりがハンパなかったので、書くことで元気になるなら、って。

 私、記憶力ないし、お父さんが言ってた言葉とか、やっぱり一言一句覚えているわけじゃないから、3割くらいは自分で想像して書いてるんです。それもおかんは「あんたがそう思ったんやから、それは嘘じゃないよ」って言ってくれました。

 すがちゃんは、かっちゃん(親代わりだった伯母)にこのエッセイ見せたんですか?

すが:かっちゃんは、そもそも僕が芸人になるのも反対だったようなまじめな人なので、「もしかしたら、本出すかも」ってちらっと言ったときも、あまりよく思ってなくて。それで、ゲラができた時に1回かるーく送ったんですよね。

岸田:軽く?

すが:PDFで送って、最悪、迷惑メールに入って開けないままでもいいやと思って。しかもちょっと嘘ついて「出版されるかどうかは決まってない」って言い方をして。実際にはその時点で発売日まで決まってたんですけど(笑)。で、ちゃんと本の形になったときに改めて見てもらったら、「最高No.1だった」って言ってもらえて、ホッとしました。エッセイで初めて知ることも多かったみたいです。僕がどんなふうに一人暮らししていたか、とか。

岸田:すがちゃんっていい意味で説明が足りてないから、かっちゃんも本を読むことであのときのすがちゃんの気持ちがわかって嬉しかったんじゃないかな。私も、「こんなふうに考えてたんや」ってエッセイによって母とのすれ違いが埋まることもありました。

 私の経験上、自分をよく見せるために家族ネタを使う人は、やっぱり後々、怒られたりトラブルになったりしてる。でも、すがちゃんってすごく珍しくて、自分のかっこよさのために他人を犠牲にしていないんですよ。

すが:相手を下げて笑いをとるのが一番かっこよくない、というのは思ってますね。それより、「こいつ自分のこと好きすぎるだろう」っていう面白さで勝負したい。

岸田:でも、「ナルシストすぎてキモいと思われたらどうしよう」って考えないんですか。

すが:そのアンテナはありますよ。ありますけど、キモいって思ってるってことはもう僕に関心があるってことで、「いいね~いいね~、今、俺のことキモいって思っちゃってるんじゃん。てことは、ここから一瞬でもかっこいいって思ったらもう虜になっちゃうぜ。それまではこのキモい状態を浴びな」ってなりますね。

岸田:貴重な人……。マジで自己啓発本書いてほしい!

対談の途中に「ぱーてぃーちゃん」の相棒・信子さんが乱入。しっかり記念写真に収まっていきました

ぱーてぃちゃん&岸田家、トリオのバランス

――トリオで活動されているぱーてぃーちゃん。岸田家も、奈美さん・お母さん・弟さんとある意味トリオだと思うのですが、トリオの醍醐味ってなんですか。

岸田:岸田家で、後先考えずに課題をどんどん突破していくのが私なんです。たとえば、お母さんが「旅行行きたいけど、車いすやもんなあ……」って行ったら、ハイハイってろくに調べもしないで予約しちゃうし、弟をグループホームに入れたいけど送迎車がないってなったら、「ほんなら私が借金して買うわ」みたいな。

 ただ、私の問題点は人当たりが良くなくて、連絡無精なんで、近所どうしの助け合いみたいなことが一切できないんですよ。でもおかんと弟はめっちゃ近所で愛されてて。だから今は私が本を書いて稼いで福祉に使ってますけど、いざ私が働けなくなったら、この2人はたぶん人間関係だけで近所の人から野菜分けてもらってこれるんです。誰が偉いとかじゃなくて、全員ができないことをそれぞれが補い合ってるんだと思います。

すが:いいですね。うちのギャルたちは少し前まで、人前に出せるような奴らじゃなかったんですよ。人の悪口ばっかり言うし、道徳もわかんないし、仕事もちゃんとしないし。でも、今はすごい成長してくれて。

岸田:それはすがちゃんの力では? 人は見返りを求めない愛を受けた時にすごく成長できると思う。

すが:いや、それあいつらに言ってくださいよ。この間も信子がちょっと色々あって凹んでたんで、アドバイスのメール送ったら、「本当にありがとう。この恩は忘れない限り、覚えとくね」って……なめてんじゃねえよっ!(と、机に突っ伏す)

岸田:すがちゃんは「贈与」の人なんですね。きっと信子さんやきょんちぃさんは喜び力が高いんじゃないですか? うちの母も喜び力が高くて、「こんなご飯食べたことない!おいしい~!」って。そうすると、私みたいなもんでも喜ばせることができるんや、ってすごく嬉しくて、もっと喜ばせたくなる。

すが:そうなんですかね。うちのギャルたちは「絆」って言葉が大好きで。なにかというとすぐ「絆だよねー!」ってキャッキャしてるんですけど、僕はそういう団らんみたいなのがアレルギーで。育ててくれたかっちゃんに恩返しをしたいとはいつも思ってるけど、じゃあ旅行に連れて行こうとか、感謝の手紙書こうとかは絶対できない。そこをずかずかと突破してくるギャルたちに助けられてるところはあるのかな。

 さっき、岸田家は「それぞれができないことを補い合ってる」って言ってたけど、たぶん僕もそうで。あの2人に出会えてなかったら、世に出られなかったと思う。そこはものすごく感謝しています。

――あらためてお互いのエッセイの感想を伺えますか。

すが:僕はこの『国道沿いで、だいじょうぶ100回』を読み終えて、タイトルの「だいじょうぶ」の意味がすごく吸収できたんです。「はじめに」にあるように、一冊まるごとが「わたしがわたしへ投げてきただいじょうぶ」になってるんすよね。たとえば、「桃のカチコミ」はふるさと納税で桃を大量注文しちゃって困る話ですけど、他のエピソードもオチがだいたいうまくいかないまま終わるじゃないですか。でも「それが人ってもんだよね」「でもだいじょうぶなんだよね」って腑に落ちる。そこに、すごく共感出来て、ああ、この人と話してみたいなって思いました。

岸田:嬉しいです。私は、『中1、一人暮らし、意外とバレない』で「かっこつけ」という言葉の意味が塗り替わりました。そこには、自分の寂しさを紛らわせるためというのもあるし、人に心配をかけたくない、笑わせたいっていう思いやりもあるし、自分と周りへの愛が「かっこつけ」ひとつに籠められていて。かっこつけは人生を救う!

――お互い、「だいじょうぶ」と「かっこつけ」という言葉を学び合ったんですね。

すが:学び合ったというか、確認のし合いでした。

岸田:そうそう、やっぱこれで合ってるよね、っていう。

すが・岸田:ねー!

すが:僕たち、同い年だしこれからもよろしくお願いします。

岸田:ほんまに。今度はもっと長尺でしゃべりましょ!

対談の雰囲気を動画でも!