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坂口涼太郎さん「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」インタビュー 諦めるのもアリ!「らめ活」で人生を彩る

坂口涼太郎さん=北原千恵美撮影

短歌を知ったうえで文章を書いて良かった

――webマガジン「ミモレ」の連載を書籍化して2025年8月6日に発売された初の著書『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』は、現在5刷となりました。ご自身でも手応えは感じていますか?

 毎日、SNSでも「こんな気持ちになりました」という感想をいただくので、読ませていただいています。この本をたくさんの方が読んでくださっていることはどこか不思議な気持ちでありながらも、嬉しい気持ちでいっぱいですね。

――さまざまなエピソードを綴っていて短歌も収めていますが、小さい頃からダンスやピアノを習い、今は俳優でもあります。表現活動をずっと続けている中に「書く」という作業はなかったのですね?

 日記もつけていませんし、今回長い文章を初めて書きました。執筆作業は楽しくて、思いもしなかったエピソードが出てきたり、予想外の結末になったり。書こうと思っていなかったものを書いて、自分でもびっくりしながら手が動いているという、まるで音楽のセッションのような感覚がありました。それまで執筆作業というと、作家のみなさんは起承転結を計算して書いていると思っていたのですが、私の場合は違いましたね。

 言葉という意味では唯一、短歌を趣味でやっていたのですが、五・七・五・七・七の31文字が基本。こうしてお話しするとわかると思うのですが、文字数が多めな人間なので、いつも話したり、文章を書いたりすると、言いたいことがありすぎて言葉が多くなってしまいます。でも、短歌は言いたいことと言えないことを取捨選択する31文字の作業。自分の苦手な部分と得意な部分の中間を示してくれるようなスタイルなので、短歌の取捨選択の仕方を知ったうえで文章を書いて良かったなと。短歌をやっていなかったら、きっとこの本の3倍ぐらいの分厚い本になっていたかもしれません(笑)

「せっかくの一回やから天国も地獄も行ったほうが得やん」

――短歌については、エッセイの中でも「二〇二〇年四月六日に『涼短歌』と名付けてSNSに投稿したのが私の歌人としてのスタート」「短歌を詠み始めたきっかけは笹井宏之さんの『えーえんとくちから』という歌集」といった記述もあります。笹井さんの短歌に惹かれた理由はなんでしたか?

 今までは百人一首ぐらいでしか短歌に触れてこなかったのですが、笹井さんの『えーえんとくちから』(ちくま文庫)の最初のページにある「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」という一文を読んだ時に、「うわ、なんてすごいんだろう」と自分が忘れていた記憶みたいなものがよみがえってきて。宇宙のことについて考えるような果てしなさを感じて、読みながら立ち尽くしてしまって、一首読むだけでもすごく時間がかかるんです。

 それからは寝る前に一首読むようにして、一首だけでもイマジネーションが広がっていって、「あの時はこういう空の色でこんな温度と空気だった」「あの人はあんな表情でこんな服を着ていた」と短歌から風景や記憶がよみがえってきて。それが面白くて、そこからとても長い時間をかけて一冊読み終わった後に、ベランダに出て、夕日を見ながら自分も短歌をやってみたいと思って、作り始めました。

――エッセイに収めた短歌で、一番おすすめの短歌はありますか?

 本の最後のページにある「せっかくの一回やから天国も地獄も行ったほうが得やん」という短歌がおすすめ。最後にこれで締めているぐらい自分の大切な精神です。悩むのも生きているから経験できることであって、生きているうちの贅沢だと思える感覚もあって。

 しんどいことがあると、「なんで私にこんなことが起こるんだろう」と思うけど、生きていなかったら知る感情ではなかったのなら、せっかくの人生の一回、天国も地獄も知ることはお得なんじゃないかと。炊きたてのご飯が美味しいことがものすごく天国に感じるぐらいに、天国も地獄も繊細に感じると自分の幅が広がっていく。対極を知るのも自分のセンサーを鋭くさせる幸せなことではないかなと思うので、この精神を持っておきたくて、短歌にしました。

――坂口さんはどこか達観している感じがありますね。

 それはきっと今まで私が読んできた本の先人たちが、「こんな悩みがある時はこう考えればいいんじゃない」「こういう物語もあるよ」「世界にはこんな人もいるんだよ」ということを本の世界から受け取って、教えてもらってきたからかもしれません。これまで読んだ本から言葉を受け取って、私もその言葉を使って、新たにこうして贈り物のように自分の本を贈らせていただきました。

ばななさんを読んでいる時のような気持ちに

――ちなみに、初めての読書体験は覚えていますか? 

 最初の読書体験は、吉本ばななさんです。生まれた時から本棚に、母が好きなばななさんの本があったので、私に本を読む素敵さを教えてくれたのは、ばななさんです。自分自身ではもともと読書が好きだったわけではなく、苦手意識も強くて、読みたいけど読めない、この文体は入ってこないというものもありました。絵がいっぱいあったほうが嬉しくて、子どもの頃は『かいけつゾロリ』や『あたしンち』などの漫画が好きで読んでいましたね。

 でも、思春期になって学校に行くと、初めて他者と自分の感情の違いにどう向き合えばいいのかがわからない。「どうすればいいんだろう?」という時に、ばななさんの小説を手に取った時に、ものすごく安心できたんです。ふとした時に、母のばななさんの本を読むと、「この気持ちは別に持っていていいんだ」「私と同じような人が他にもいるんだ」と、体が温まるような感覚があって。だから、今でもばななさんの本は、疲れている時などに読んでいると、体を温めてくれるお守りのような存在です。

――坂口さんにとってのばななさんのように、『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』を読んだファンの方や読者の方にとっては、坂口さんが体を温めてくれる存在になっているかもしれませんね。

 そうだと嬉しいですね。まさに、当初「本を出しませんか?」と言われた時に思ったのは、「私がばななさんの本を読んでいる時のような気持ちになってほしい」ということでした。そのテーマのもとで書いていたのですが、それは誰にも言っていなくて。でも、出版後にある書店の方から「この本とばななさんの本は合う気がするので対談しませんか?」というお話が来るわけなんですよ。だから、すごく人間の感性は優れていて、繊細なんだなと。ばななさんと私の本では、一見、全然違いますよね? でも、文章の言葉の裏側にある温度を感じてくださる方がいて、「わかってくれるんだ」という喜びを感じました。

――伝わるものがあるのですね。ばななさんの本では、どの本が一番お好きなのですか?

 『白河夜船』(新潮文庫)が一番好きですね。恋人の電話には気づいて起きられるんですが、その他はずっと眠っている人の話なんです。私も基本12時間と長い時間寝るタイプで、睡眠は絶対に必要だし好きな体験なんだけど、どこか罪悪感があって。起きていたら何かをすることに費やせた時間だったのではと思っている節があったんです。でも、ばななさんと対談させていただいた際、「日々いろいろなことを感じて、世界から繊細にいろいろなことを受け取っているということは、それだけ睡眠中に咀嚼する時間が必要なんだと思う」というようなことをおっしゃってくださって。それがすごく嬉しかった。

 心のどこかで無駄な睡眠時間を取っているのではと思っていたけど、休息のために自分の中で咀嚼する時間を確保してから起きていたんだなと、「私には必要な無駄なんだ」と。最近は「コスパ」「タイパ」という時代ですが、私はあえての「無駄パ」と呼んで、この時間は“必要な無駄のパフォーマンス”だと思っています。

「らめ活」の先に何があるのか

――いいですね。なんでも省略や削減がいいとは限りません。そういうお考えや「らめ活」に共感する方も多いように思いました。

 私もそうでしたが、休んだり諦めたりすることにどこか罪悪感のある方がいらっしゃるのではないかなと。何かを途中でやめてやりたいことができなかった時に、他人からもっと頑張りなさいと言われて続けてみても、それが本当に自分に合っているのかはまた別なこと。誰かの言葉に影響されて続けなきゃいけないと思い込んでいる場合もあるので、途中で諦めることもありだと思っています。

 自分には何が合っていないか、心のどこかではわかっていることだったりするんですよね。そんな時は諦めてまた違うことに手を出してやってみる。それで続いたら「ラッキー」ととらえる。そうすると、自分の居場所や自分の性格に合った生活がどんどんできるようになるはず。そして毎日がラメのように光ってラメラメしてくるのが「らめ活」です。

――「らめ活」で自分らしい生き方ができるといいですよね。自分に合うものに囲まれるというと、好きな本に囲まれたいものですが、ばななさんの他にも好きな作家さんはいますか?

 ずっと好きなのは川上未映子さんです。全作品を読んでいます。

――エッセイでも川上さんの妊娠・出産体験を綴った『きみは赤ちゃん』(文藝春秋)を紹介していますね。私も出産後、この本を読んで印象に残っています。

 私は出産体験がわからないので、川上さんのこの本を読んでいると「知らない世界を教えてくれてありがとう」とすごく思いました。どれだけ親しい人にもあまり言えない体の変化や気持ちをあんなにユーモアを込めて正直に開示してくださって、ありがたいなと思いながら読みましたね。

スタイリスト:takashi sekiya / ジャケット¥120,000 シャツ¥48,000 パンツ¥90,000 ベルト¥38,000 ネックレス¥80,000 全てYES BECAUSE YES(080-7276-7614) その他スタイリスト私物

――ご自身では、今後も執筆活動は続けますか?

 続けていくと思います。35年生きてきて、初めてエッセイの文章を書いて「こんな気持ちになるんだ」という初体験ができたのは面白かった。きっとこの先もそんな体験はまだあると思うので、そこは諦めたくないです。初めて得るときめきや感動を明らかにして、ラメで彩る生活にしていって、どんどん「らめ活」していきたい。「らめ活」の先に何があるのかは私が証明しないといけないので、いつか「らめ活はやっぱり違いました」という本ができるかもしれないし、できないかもしれない(笑)。私が実験台になって、みなさんにも参考にしていただけるよう、さまざまなことをやっていきたいですね。