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中江有里さん「日々、タイガース、時々、本。猛虎精読の記録」インタビュー 野球も人生も勝負はこれから!

Photo by Ari Hatsuzawa

一味違うものに挑戦したくて

――「好書好日」の連載が本になりました。野球×本×日常という、変わったテーマのエッセイですね。

 そうですね。最初は「本に関するエッセイの連載」というご依頼を頂いたんですが、書評もエッセイも、長いこといろんな所で書いてきたので、できたら一味違うものに挑戦したいという思いが最初にありました。(編集者と)いろいろ打ち合わせをする中で、共通の話題として阪神タイガースで盛り上がったんですね。私も当時、熱中し始めた野球のことをすごく書きたい、そして私がライフワークにしている書評とコラボレーションできないかという発想から、本と野球の二本柱で行くことになりました。

――そうでした。でも当初のコンセプトは本が中心で「ときどき野球も」のはずでしたが……。

 2023年の4月に連載が始まったんですが、途中から阪神が独走状態に入ったんです。強いから、ついついタイガースの話ばっかり書いちゃうんですよ。そうしたら止める人がいなかった。編集者も「いいんですよ、これだけ強いんですから」と。

――終わってみれば18年ぶりリーグ優勝、38年ぶりの日本一でしたからね。これはもう歴史的現象なので、中江さんには時代を記録する人として存分に暴れてもらおうと思いました。

 それがいい方向に転がっていったのがこの連載で、優勝を決めた試合の甲子園球場のスタンドにも奇跡的にいることができました。甲子園に入った途端、もう今日は負ける気がしなかった。そんな空気に包まれて、安心して見てたんですよね。

阪神優勝の瞬間、わたしは甲子園にいた。かみしめた「思いがけず利他」の循環 中江有里

私、かなり「沼ってる」

 2023年は個人的にも忘れられないのが、7月に腎臓の疾患で自宅で倒れて、緊急入院、手術したことです。自分がもう、ものすごく阪神タイガースに魅せられていることを自覚した時ですね。というのも、夢に毎日見てましたから。具合が悪すぎてテレビもネットも全く見られない状態だったのに、とにかく試合の結果が気になる。けど見られないので、そのまま目をつぶって寝ようとすると、なぜか阪神の夢を見る。私、かなり「沼ってるんだな」と自覚しましたね。

緊急入院。夢でも気になる試合結果に「アルジャーノンに花束を」が重なった夜 中江有里

――そこまでのめり込んでいるタイガースのファンになったのは、実はその前年からだとか。

 めちゃめちゃ新参者です。大阪出身ですが、15歳で東京に出てきて、野球を見るひまも全然なく働いてきたんですよ。だからあまり興味もなかったし、選手のことも知らなかった。それが2022年の開幕戦を偶然、テレビで見たんです。大差で勝っていたのに、まさかの大逆転負け。そこから開幕9連敗して最下位に沈んだけど、最後は日本一を狙えるところまで来た。その劇的な1年を見て、本気で応援しようと心に決めたんですね。まずはファンクラブに入って課金するところから始めました。

 私、子どもの時から読書が好きで、アクティブなことってあんまりしてないんですよ。それが阪神の試合を見るために北海道新潟にも足を運ぶようになって。夏の試合は汗だくになるけど、それこそが楽しいと心が切り替わった。5年前の自分が見たらびっくりするんじゃないかなと思いますね。

起死回生の同点弾! 中島らも小説のプロレスラーみたいに、最後まで諦めない気持ち 中江有里

――毎回1冊、必ず本に触れる約束ですが、本はどうやって選ぶんですか?

 書き始める時には決めてないんですよ。直前に見た印象的な試合とか選手のこととか、いろんな野球にまつわることで書き始めて、途中で立ち上がって、本棚の前に行きます。本棚が壁一面にあるんですけど、そこで本を眺めるんです。そうすると今日書いたエッセイに通じる本を発見するんですよ。それを取り出して、もう一回軽く読んで書くというパターンです。

――しかも毎回、野球に通じています。優勝を決めた甲子園のライトスタンドを中島岳志さんの『思いがけず利他』と表現したり、代打専門で待機する選手の心境を、萩尾望都さんの『11人いる!』にたとえたり。

 書き始めるまでどの本を書こうって決めてないから、自分自身も結構ヒヤヒヤハラハラしてるんです。でも、結末がわかってるドラマって面白くない。野球も同じで、私も書きながら試合に臨んでるんです。本を選ぶところまで、自分なりのストーリーを作ろうと思って書いてるんですよ。

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――最近、26年ぶりに映画主演も果たしました。野球も人生も「勝負はこれから」ですね。

 本当にそう思いますよ。今だから笑えるけど、2年前、本当に倒れたまま助からなかった可能性もあったので、生きてきたから2回も優勝を見ることができた。今年は残念ながら日本シリーズは敗退しましたけど、来年も頑張ってくれるという期待を持てる。2023年の開幕戦の時、そんな未来は全く想像していませんでしたよね。

 ペナントレース143試合、本当に1試合も同じ試合はない。それって私たちの日常と全く同じで、昨日と同じようだけど、微妙に何か変わってる。この本でも負け試合について触れていることが多いですね。143試合、どこかで絶対負けるけど、試合内容を反省することで課題が見えてくる。だから実は負けた方がすごく心に残るんですよ。

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