書いても書いても止まらなかった。親交が深かったロック歌手忌野清志郎さんの評伝本の解説文を依頼されて執筆したら、50ページ近くなり編集者に止められた。原稿が書けずせかされたエピソードはよく聞くが、書きすぎは珍しい。「人生にも尺があり、原稿にも尺があるのにね」
このあとがきだけで終われず、今回のエッセーを書くことに。芸能生活は40年を超えた。松田優作さん、萩原健一さん、内田裕也さんら数々のスターとの思い出があふれる。「昔はみんな生っていうか、人間味があって。印象に残る人とたくさん出会っちゃったから。大好きな人のことを書くのはロマンチックだった」と話す。
華やかな話から一転、自分自身のことは書名の通り、「最低のこと、恥をかいたこと、情けなかったことばかり」。「『おまえのことなんて誰も興味無いんだよ!』って言っているもう一人の自分がいる」と控えめだ。
高校時代に友だちと組んだバンドでコンテストに出たら、本番で歌詞をすっかり忘れ、仲間に何度も謝り泣いた。口笛を吹く音楽イベントで全く音が出ず、移動中の新幹線でひとり落ち込み、泣いた。こんな人知れず涙する場面がたびたびでてくる。
画面越しに見る俳優の印象からかけ離れた弱気な一面は意外に思えるが、「ファイト」「1等賞」という言葉は昔から大嫌い、せりふを忘れる夢を見て眠れなくなる。「常に不安ですよ、人に見てくれという仕事は。誰かの役になりきって何とか乗り越えられる」という。
ただ、失敗してもめげるだけでは終わらない。結局周りに乗せられてまた頑張って挑戦してしまう。再度失敗することもあるのだが、そこが何ともいとおしい。
いま68歳。舞台稽古の真っ最中で、映画の公開も控える。「仕事は選ばない。どこにどんな出会いがあるかわからないから。スケジュールさえ合えば飛んでいく。何かをつくりたい気持ちが常にある。それだけを考えて生きてきた」。インタビュー後も、颯爽(さっそう)とドラマの撮影に向かった。(文・森本未紀 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2024年7月6日掲載