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『「台湾菜」の文化史』書評 押し寄せる歴史の荒波を柔軟に

評者: 長沢美津子 / 朝⽇新聞掲載:2024年07月27日
「台湾菜」の文化史: 国民料理の創造と変遷 (台湾学研究叢書) 著者:陳玉箴 出版社:三元社 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784883035915
発売⽇: 2024/06/18
サイズ: 15×21cm/488p

『「台湾菜」の文化史』 [著]陳玉箴

 台湾を旅して出会った料理、日本でも身近な皿を、本書によって深く味わい直すことになる。
 たとえば夜市で人気のカキ入りオムレツに、とろりとかかるあんは、もてなし表現の名残。主食がサツマイモだった頃、イモの粉を溶いてひと手間を加えたという。
 あっさりした青菜炒めは、燃料も食用油も調味料も倹約した結果だ。素材を生かした調理は伝統となって、いまや台湾美食の強みである。
 「おいしさ」に何が宿るか。複雑な歴史のなかで、時の人々が何を「台湾菜(台湾の料理)」だと考えて、どう食べてきたか。著者は史実の現場を細かに分析しながら、大きな世界と向き合う。
 描かれるのは、清朝末から日本の統治期、大戦後の新体制、民主化と経済発展まで。外から押し寄せてくる「力」と「人」は、いつも内で営まれる「暮らし」とせめぎあっている。
 統治日本が「台湾料理」と呼んだのは、フカヒレもアワビも、と贅(ぜい)をつくして美しい宴席料理だった。日本は酒席の慣習を持ち込み、一方で台湾の上流階級の食事マナーの影響も受ける。
 大陸からの100万の外省人は、それぞれ故郷の料理を再現し、混じり合う新しい味を生む。島の風土に根づく食事は周縁に置かれ、表舞台に出るのは1990年代だ。地方の「小吃(シャオ・チー、軽食)」は、観光資源というあらたな力になっていく。
 引用文献は369と重量級。著者は歴史学だけでなく、人類学や文学などを駆使して、飲食文化という全貌(ぜんぼう)の見えない山の登り方を読者に示す。史料として掘り起こした献立の一覧からは食いしん坊魂があふれだし、食欲も刺激される。
 著者は、台湾人のレストランは「『本場』を貴ぶことはめったになく、(中略)消費者の好みに合うかどうかが常によい料理の基準」だと記す。その柔軟さが活力なのだろう。よい料理とはなにか。日本に照らして、考えずにはいられない。
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ちん・ぎょくしん 台湾師範大学教授、食文化史研究者。著書に『飲食文化』(未邦訳)ほか。