昭和の小学生だった頃、友人が縁日で青いヒヨコを買った。色粉で染められたそのヒヨコは、やがて普通の白い鶏になった。しかし、佐橋くんが道端で怪しいおじさんから買ったヒヨコは違う。1週間もしないうちに、ひと抱えもあるサイズの火の鳥になったのだ。
いつの間にか日常に入り込んできたデカい鳥。しかし、佐橋くんも同居人も当たり前のようにその存在を受け入れる。その行動はシンプルな思考に立脚したもので、特に無理をしている様子はない。奇々怪々な日常が描かれているのに、フラットな物語にはひっかかるところがなく、混じり気のないキレイな水が、すーっと喉(のど)を滑り落ちていくかのように読み進めた。
佐橋くんの周りの人外は、火の鳥だけではない。担任は化け狸(だぬき)で、級友はヘビ人間の子どもだったりするが、その造形はどこかのほほんとしている。ある日、海で黄昏(たそがれ)ていた佐橋くんは、イソヒヨドリの人魚と出会う。人間とは異なるルールで生きる彼らの文化を尊重しつつも、自分が感じていることは率直に伝える――。深いのに、気負いのない対話も印象的だ。
コマ間の跳躍も程よく、細かな所作もナチュラル。読後は羽毛にくるまれているような柔らかな感覚が残った。=朝日新聞2024年8月3日掲載