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「人類は宇宙のどこまで旅できるのか」書評 壮大すぎる探査計画にワクワク

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年08月17日
人類は宇宙のどこまで旅できるのか: これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー 著者:レス・ジョンソン 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784492800966
発売⽇: 2024/06/12
サイズ: 19.5×2.5cm/290p

「人類は宇宙のどこまで旅できるのか」 [著]レス・ジョンソン

 宇宙旅行は大ごとだ。
 たとえば燃料。速度を上げるにはたくさん燃やす必要があるけれど、多く積めばそのぶん重くなる。なので燃料がもっと必要になり……という悪循環。月へ行ったアポロ宇宙船は40トン強なのに、それを飛ばしたロケットは2800トンもあった。
 事実、生身の人間は月より遠くには行けていない。40年以上飛んでいる無人探査機も、太陽系の外にやっと出たばかり。
 本書が見すえるのは、はるか遠く、太陽とは別の恒星系にある惑星だ。一番近いものでも光の速度で4年超かかる。どうすれば行けるのか。
 課題は燃料だけではない。食料は? 放射線をどう防ぐ? 地球との通信は? そもそも何百年もの長旅の船に、人を一生閉じ込めるのは倫理的に許されるのか?
 いろいろな技術を(いまは無理でも将来性を買って)比べた著者は、こんな宇宙船を提案する。
 乗組員は1千~10万人。太陽のように核融合ができる炉を載せて、推力や各種電源に使う。速度は最大で光速の1割程度。燃料の水素は地球から持参するだけでなく、宇宙空間にうすーーーく漂っているのを直径数千キロもの巨大な網で集めながら飛べば、なおよし。
 有害な放射線は水が入ったタンクでさえぎる。その水を飲用や料理、農業に使い、尿や空気中の湿気から回収して再利用する、という。
 壮大すぎる。そこまで苦労して大枚はたいて、なぜわざわざ宇宙へ?
 地球はいずれ住めなくなる、外に出ないと人類は滅ぶと著者は説明する。一方で「有形の利益とは無関係」とも書いている。宇宙探査で「人間の知識を拡張すること」は、私たちの使命であり運命だというのだ。
 ピンとこない人も、SF的ワクワクなら存分に味わえるはず。アインシュタインの方程式によると、「負の質量」を持った物質がもしあれば、宇宙船が光より速く飛べてもおかしくないそうな。
 マジですか。
    ◇
Les Johnson 物理学者。NASAの初めての惑星間ソーラー・セイル宇宙ミッションなどの主任研究者。