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旅は道連れ 澤田瞳子

 先月、東京で仕事が複数あり、朝一番に自宅のある京都を発つと決まった。だが出発直前の交通情報には、東海道新幹線が不通とあった。愛知県内で保守車両同士が追突したためで、復旧は早くとも正午という。

 午前中の仕事はまず無理。再開が早ければ、夕方からの仕事には間に合うが、本当にそんなすぐ復旧するだろうか? こんな時、じっとしていられない性分ということもあり、決断は早かった。京都から敦賀まで在来線特急で向かい、この三月に延伸したばかりの北陸新幹線に乗り換えて上京しようと飛び出した。

 スマホで切符を取った在来線特急で、隣席の青年が「東京に行きたいんですが、本当にこれでいいんですか」と話しかけてきた。就職試験で上京せねばならないところ、新幹線が不通となり、駅員さんに教えられてこの列車に乗ったという。

 私も鉄道に詳しくはない。ただ理論上は敦賀で新幹線に乗り換えればいいこと、自分も東京で用があり、このルートで上京するのは初と話すと、彼は「面接で話すネタが増えたと考えます」と笑った。

「面接、頑張ってくださいね」

 敦賀駅乗り換え時間は短い。彼には先に行ってもらって下車し、仲間内用のSNSに敦賀駅の写真を投稿した。直後、スマホが震え、「そっちも敦賀?」とメッセージが表示された。大学の先輩からだった。

 聞けば、大阪在住の彼もまた関東出張があり、私と同じルートを選んだという。しかも敦賀から先は同じ新幹線。動き出した車内を通って会いに行き、「まさかここで会うとは」「びっくりですよね」とデッキで立ち話をした。

 出張の多い先輩は、私より長距離移動に慣れている。今後、更にトラブルに遭っても、この方と一緒ならどうにかなるだろうと安堵(あんど)するとともに、旅は道連れという言葉を感慨深く思い出した。先程の青年のほっとした顔が浮かび、同じ新幹線に乗っているはずの彼の道中の安全と就職試験合格を改めて願った。=朝日新聞2024年8月28日掲載