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瑞々しく、ときに切ない青春ホラーの収穫 梨、芦花公園、福澤徹三を読む

モキュメンタリーホラーがとらえた青春

 ある高校の文芸部の部室から発見されたUSBメモリ。そこにはある男子生徒の死に関する情報が収められていた。誰が、何のためにそのようなデータを集め、保管していたのか。心当たりのない部員たちは気味悪がる。

 ホラーの新鋭・梨の『お前の死因にとびきりの恐怖を』(イースト・プレス)は、著者が得意とするモキュメンタリーの手法を用いて、高校生2人の生と死を鮮烈に描いた長編だ。

 USBメモリに収められていたメディアデータ、学校新聞の未発表記事とその発端となった怪談、裏山にある小屋を〈基地〉と称して用いていた合唱部員たちへのインタビュー。一見繋がりのない断片的な情報が、この高校を覆っていた怪異と、その中で命を絶った少年・及原悠真の存在を浮かび上がらせていく……という展開は、最近流行のモキュメンタリーホラーそのものだが、その向かう先が既存の作品とは大きく異なっている。

 従来のモキュメンタリーの多くが実話的な恐怖を目指しているのに対し、本書が描こうとしているのは怪異と戯れ、幽霊を招き寄せることに没頭する少年少女の暗く風変わりな青春である。その心のありようはあまりに危ういが、同時に否定できない美しさをも感じさせる。モキュメンタリーはこのような世界も表現できるのか、と大いに驚かされた。随所に配置された恐怖シーンも相変わらず冴えわたっており、優れた青春ホラーになっている。

恐ろしくも悲しい愛の物語

 芦花公園『眼下は昏い京王線です』(双葉社)は、私鉄・京王線沿線を舞台にした連作集。静岡出身の大学2年生・遠藤琴葉は、夜の盛り場で危ない目に遭っていたところをシマという男性に救われる。シマに一目惚れした琴葉は強引に連絡先を交換するのだが、彼は幽霊に会うことを熱望するかなり変わった青年だった。シマとのつながりを保つため、怖がりの琴葉は幽霊が出るとされる場所に出向くのだが……。

 ぶっきらぼうで幽霊にしか興味がないシマと、彼のために怖々心霊スポットを訪ねる琴葉のちぐはぐな関係が楽しい青春恋愛ホラーである。とはいえそこで扱われる恐怖は“甘口”とはほど遠いものばかり。執着する相手の前で命を絶ったストーカーの霊が自宅までやってくる「調布」、母親を探す少年の霊に手を貸すうち、暗澹たる真相に突き当たる「つつじヶ丘」、婚約者が天狗にさらわれたと主張する女性に出会う「千歳烏山」。京王線沿線の各駅でくり広げられる調査は、確実に琴葉の日常を蝕んでいく。正常と異常、生者と死者の境界がみるみる曖昧になっていく怖さは、まさに著者の真骨頂だ。

 果たして琴葉の恋は成就するのか。そしてシマが幽霊に会いたがる理由とは? 生粋のホラー作家が放った恐ろしくも悲しい愛の物語にして、オカルトに魅了される人の心を描いた青春小説。おなじみの人気キャラクターが、さりげなくゲスト出演しているのも嬉しい。

オカルトの意外な効用描く成長小説

 福澤徹三『オカ研はきょうも不謹慎!』(PHP文芸文庫)の主人公・多聞蒼太郎は、中学・高校時代がもろにコロナ禍と重なってしまった世代。さまざまな行事が中止になり、友人も作れなかった彼は、春から始まる大学生活をエンジョイしようと決意するが、どうしたことか、オカルト研究会という変わり者ばかりのサークルに入ってしまう。超常現象の研究に余念がない会長・万骨のもと、メンバーは怪談会や心霊スポット探訪など怪しげな活動に従事するのだった。そんなある日、蒼太郎の思い人である文月麻莉奈が心霊現象に悩まされるようになり……。

 現代科学で証明されていない物事を扱うオカルトは、良識ある人々からしばしば不健全、不謹慎との批判を受ける。本書ではオカルトを「時間のむだ」と断じ、オカ研を潰そうとしている学生部長・渋智教授がそのスタンスだ。しかしオカルトは本当に不謹慎なのだろうか。

 本書はなんとなく流されるままに生きてきた蒼太郎の目を通して、オカルトの意外な効用を描く成長小説だ。先輩たちやサークル顧問の非常勤講師・御子神の口から語られるオカルト談義は、現代社会に息苦しさを感じている蒼太郎に、新しい視点を与えてくれる。美味しい料理が悩める若者の背中を押す著者のヒット作『侠飯(おとこめし)』のように、この作品ではオカルトが人生の応援歌となるのだ。オカルトと新興宗教の違いについても触れられており、オカルト入門編にはぴったりである。シリーズ化を期待したい。