ISBN: 9784087718751
発売⽇: 2024/09/05
サイズ: 13.1×18.8cm/336p
「イグアナの花園」 [著]上畠奈緒
参った。こんなにもイグアナを愛(いと)おしく思う日が来るなんて。爬虫(はちゅう)類はめちゃくちゃ苦手だけど、本書に登場するソノにはやられてしまった。もうね、愛おしくてたまらないんですよ!
主人公は、大学教授の父と華道家元の母を持つ八口美苑(やつぐち・みその)だ。厳格な母のことは「母上」、父は「お父さん」と呼んでいることからもわかるように、美苑にとって母よりも圧倒的に近しく、良き理解者でもあった父。その父は、美苑が小学生のときに急逝。しばらくの間、自分の心がどこにあるのかわからなくなるほどの悲しみに、美苑はつかまってしまう。
ある日、父の同僚だった児玉先生が、美苑を勤務先の大学に連れ出す。「生きた宝石を見せてあげよう」と。その宝石こそが、「まだほんの子ども」だったグリーンイグアナで、美苑はそのお世話を託される。
ここから時を経て、24歳になった大学院生の美苑の物語が始まる。ソノと名付けられたイグアナは、彼女とともに成長し、かつて美苑の父が使っていたアトリエで美苑と暮らしている。
幼い時から、なぜか小さな生き物たちの声が聞こえていた美苑とソノは会話ができる。美苑は周りの空気が読めず(そのせいで、小学生のころハブられたこともある)、そもそも人には興味がなく、だから友人もいない。でも、ソノがいるから、美苑の世界は美しく閉じられている。それで何の問題もなかった。はずだった。病を患い余命を区切られた「母上」から、突然ご無体な指令が出るまでは。
その指令遂行のために、ソノとだけ生きてきた美苑の世界が、ゆっくりと外へと広がっていく。悩んだり凹(へこ)んだりしつつも成長していく美苑の心に寄り添い、見守るソノ。聡明(そうめい)で愛情豊かなソノが、尊すぎる。
最終章、ラストの十数ページは手元にティッシュ推奨。ソノが作った景色の優しさに、涙腺が緩みまくるので。
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うえはた・なお 1993年岡山県生まれ、同県在住。『しゃもぬまの島』で小説すばる新人賞を受け、デビュー。