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「肥満の科学」書評 犯人は満腹感を邪魔する「果糖」

評者: 小宮山亮磨 / 朝⽇新聞掲載:2024年11月02日
肥満の科学: ヒトはなぜ太るのか 著者:リチャード・J・ジョンソン 出版社:NHK出版 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784140819715
発売⽇: 2024/08/30
サイズ: 13.1×18.8cm/384p

「肥満の科学」 [著]リチャード・J・ジョンソン

 はいはい分かってますよ。やせたければ食事を減らして、あとは運動でしょ。それができれば苦労しませんって。と、半ばふてくされて読み始めたところ――。
 えー、なになに。肥満の原因はつきつめると、体を大食&節約モードにする「スイッチ」が入ること、だって? 冬眠前に脂肪をたくわえるクマと同じで、これを防げば太らずにすむ、と。
 おぉ、スイッチを入れる犯人も特定済みとな。果物とか蜂蜜にたくさん入っている「果糖」。これを与えたラットは満腹感を得にくくなって、食べる量が増えて太る。エサを制限すれば太りはしないけれど、血糖値が下がりにくくなって血圧と中性脂肪が上がり、メタボ体質になる、と。
 人間でも、果糖がたっぷり入った甘いドリンクをがぶ飲みするのが、良くないという。じゃあ、それをやめればスリムな健康体になれるのね⁉
 残念でした。果糖そのものを口にしなくても、体は果糖を別の材料から作れてしまうらしい。
 果糖は血糖値が高いときにできやすい。さらに悲しいことに、果糖は塩辛いものを食べたときも量産されるし、うまみのもとになる各種アミノ酸にも例のスイッチを入れる効果がある。甘い、しょっぱい、うまみが強い。みんな大好きなこの手の食べ物は、どれも肥満のもとだそうで。
 というわけで著者の助言は、炭水化物でも血糖値を上げにくい「低GI食品」がいいとか、塩分は控えてねとか、よく聞く健康話に落ち着く。
 ただ、著者はこうも解説する。飢餓は生き物にとっての大敵だ。非常時に備えて脂肪をためこむのは生き残りに必須で、飽食時代の人間も体のしくみは昔のまま。太るのを助ける食べ物を「おいしい」と感じるように、私たちは進化してきたのだ、と。うーむ。
 少しガッカリ。でも、やっても無駄なダイエット法も根拠付きで紹介してある。楽してやせる道はなし。がんばります。
    ◇
Richard J. Johnson 米コロラド大医学部教授。内科、感染症、腎臓病の専門医資格を持っている。肥満と糖尿病の原因について長年研究している。