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藤川球児新監督にかける、遠藤周作流「百パーセント」の期待 中江有里の「開け!野球の扉」 #20

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 2024年10月13日、阪神タイガースの2024年シーズンが終了した。

 セ・リーグ2位の阪神は、クライマックスシリーズ1stステージで、同3位の横浜DeNAベイスターズに10-3で負けた。圧倒的な負けだった。
 阪神は1回、森下翔太選手のホームランで先制したものの、DeNA打線に太刀打ちできなかった。
 諦めかけた9回裏、原口文仁選手のソロホームラン。ディフィンディングチャンピオンとしての意地を感じ、少しだけ心救われた。

 試合終了後、今季で退団する岡田彰布監督はベンチの奥へと消えていった。
 阪神ファンの「岡田コール」が鳴り響いたが、背番号80の縦じまユニフォーム姿を見せてくれることはなかった。

 ふと思いかえす。8月14日、阪神タイガースの東京ドーム今季最終戦。
 0-4で巨人・戸郷翔征投手に完封されたこの日、現地観戦していた。
 近年、ビジター球場での最終戦では試合終了後、監督やコーチ、選手一同がグラウンドに出てきて、かけつけたファンに挨拶するのが半ば恒例となっている。
 しかしこの日、岡田監督はそのまま球場を引き上げた。
 コーチや選手たちは、少し戸惑っているようにも見えたが、ベンチ内を片づけ終わるとそのまま奥へと引っ込んだ。

 SNSやニュースでは岡田監督と選手たちを責めるファンの声も聞かれたが、勝手な憶測で言うと、これが岡田監督の美学だと思う。
 勝つことが一番のファンの願い。しかしそれに応えられなかった。
 冒頭に記したクライマックスシリーズも負けたらもう後がない。その試合に負けた。

 この2年間、負けたら挨拶はなし、時にはインタビューも受けない、そういうやり方だった。
 最後までそのスタイルを貫いて、岡田阪神は幕を閉じた。

 そして阪神タイガースは藤川球児新監督のもと、来季へスタートを切った。
 通算60勝・243セーブを挙げた往年の伝説のリリーフ投手。10月15日、監督としての初の会見でこう言った。
「24時間、監督としてやっていく」
 監督である限り、オンもオフもない。百パーセントの時間と力をタイガースにかける。その覚悟の言葉――そう受け止めた。

 遠藤周作は『私にとって神とは』で、こんな質問を受けたことがある、と明かしている。

「あんたにとって神とは何か」
「いったい神なんか本気で信じているのか」

 キリスト教信者の遠藤周作がそんな声に答えるため、Q&Aの形で記した一冊だ。

 その中に「信仰というのは九十%の疑いと、十%の希望である」という文章がある。
 宗教に限らず解釈すると、自分が信じる対象を九十パーセント疑い、十パーセントは信じるということ。

 数字的に見れば、相当疑っている!
 残り十パーセントに意味はないのか?
 いや、そうではなく、実はこの十パーセントは、九十パーセントよりも強いのだ。

 どんなに勝ち目がなくても、希望を捨てたら、何も残らない。
 少なく見える十パーセントの信じる力が、希望を叶える。だから九十%より強い。

 翻って、24時間監督としてやっていく藤川監督。
 勝利への期待が大きいからこそ、勝てば賞賛され、負ければ容赦ない批判にさらされる。これまでのタイガースの監督もそうだった。
 ペナントレースは143試合もあって、ひとつ勝った負けたと一喜一憂したってしょうがない、とわかっていても、だ。
「コーチ経験がないのにいきなり監督で大丈夫か」「投手出身は監督に向かないのでは」など、すでに様々なことをメディアでも言われている。
 それもこれも、ファンは信じているからだ。再びセ・リーグ6球団のトップに立つこと。その先の日本一も。

 11月9日、藤川監督の故郷に近い高知県安芸市での秋季キャンプに、阪神のオーナー付顧問となった岡田前監督があらわれた。
(80 OKADA)と縫いこまれた黒いジャージ姿でベンチに座る岡田オーナーはユニフォームでないけど、まだ監督っぽい。CS中は体調不良だった、と言われていたので、元気そうでホッとした。
 岡田オーナーのそばにいる藤川監督は、若々しく現役選手みたいに見える。

 まだ始まったばかりの藤川阪神。あえて数字に表すなら、期待度百パーセント!
 来季90周年を迎える阪神タイガースのキャッチコピーは「鼓動を鳴らせ。虎道を進め」。
 鼓動を高鳴らせてくれる来シーズンが待ち遠しい!