起死回生の同点弾! 中島らも小説のプロレスラーみたいに、最後まで諦めない気持ち 中江有里

野球観戦の楽しみのひとつ、それは遠征。
昨年、ファーム戦を観に行った新潟。今年は横浜DeNAベイスターズ×阪神タイガース戦が開催される! 新潟での阪神戦は13年ぶり。同時にファーム戦も3日間ある。
試合日程に合わせて、新幹線とホテルを予約。
2泊3日、新潟野球観戦記(読書案内も)です。
5月13日(火)
上越新幹線で昼ごろ新潟到着。
まずは腹ごしらえ。炊き立てご飯のランチ。お米の国に生まれてよかった♪
現地の方から「昼間と夜の気温差が激しい」と聞き、上着を持参。ユニフォームと帽子を着用し、折り畳みクッションも忘れずに。ハードオフ新潟エコスタジアム(エコスタ)へ。
球場はすごい人人人。ハマスタでも甲子園でもないのに、両チームのファンがたくさん!
まだ空が明るい18時試合開始。昨日から喉の調子がいまいち、声援は抑えめに。
先発は才木浩人投手。対する横浜はジャクソン投手。
互いに打てず打たれず。スコアボードに0が並ぶ。
7回、横浜に1点先制されてから、少しずつ阪神ファンが帰りはじめる。夜になって冷えてきたせいもあるけど、負ける瞬間を見たくないのだろう。1点が遠いまま9回を迎えた。
9回表、絶好調の四番・佐藤輝明選手、五番・大山悠輔選手が倒れて2アウトランナーなし。
バッターはプロ5年目、この日が今季初スタメンの22歳、高寺望夢選手。
前列が誰もいなくなったおかげでグラウンドがよく見える。時間はまもなく21時。
残念、今日は終わりかな、ホテルに戻ったらお風呂で暖まろう、なんて考える。
その時、ライトスタンドへボールが飛び込んで、はねてグラウンドに落ちた。
「え、何が起きた…?」
高寺選手、プロ初ホームランで同点! こぶしを突き上げてホームインしてくる。
喉の調子を忘れ、こぶしを突き上げて叫んでしまった。
試合はその後、ほぼないと思っていた9回裏に突入。結局そのまま延長12回引き分け。
時間は22時すぎ。冷えたけど熱い場面を見た。新潟まで来てよかった。
ホテルのバスタブで熱いお湯につかりながらほっと一息。なぜか、昔読んだ本のことが思い浮かんだ。
中島らもの児童向け短篇集『お父さんのバックドロップ』。表題作は小学生の下田くんと、そのお父さんとの物語。
お父さん・下田牛之助は金髪で鼻の下のひげを生やした大男。職業は悪役プロレスラー。息子から「尊敬していない」と言われたお父さんは、世界空手チャンピオンに挑戦状を突き付ける。43歳のプロレスラーが27歳のチャンピオンに命がけで戦いに挑むのだ。
周囲はこの戦いをやめさせようと説得するが、お父さんの気持ちは変わらない。
悪役プロレスラーが自分のため、妻と息子のためにリングにあがるシンプルなストーリーにちょっと瞼が熱くなる。
試合当日、リングに立った下田牛之助は言う。
「正直にいってやろうか。おれは……こわい。ひざがガクガクするくらいにこわい。負けるのが怖い。死ぬかもしれない。しかし、もっとこわいのは、きょうかぎりで、もう二度とリングに立てないのじゃないか、ということだ」
レギュラーを争う高寺選手も、9回のバッターボックスでそんな心境だったのかもしれない。
やってみるまで結果は誰にもわからないのだ。9回ツーアウトまで。
5月14日(水)
昨夜の4時間超えの試合は体に堪えた。なかなか起きられないし、声も枯れている。
今日は夕方から三条パール金属スタジアムで、オイシックス新潟アルビレックスと阪神二軍の試合がある。
17時から試合開始。昨日、一軍の試合と同時刻に開催されたファーム戦はオイシックスが逆転勝利している。本日2戦目の先発は門別啓人投手。
2回、2024年イースタンリーグ首位打者・知念大成選手に三塁打を打たれ、続く永澤蓮士選手のサードゴロの間に1点先制される。
去年観戦した同じカードでは阪神が圧勝していたけど、今年のオイシックスは何だか選手の目の色が違う気がする。チーム発足2年目、1シーズンを戦い抜いた自信だろうか。
結果、5-2で阪神が勝ったが、オイシックスの粘り強さが印象に残った試合だった。
5月15日(木)
新潟最終日は0時半からエコスタにてオイシックス×阪神戦。
またもやオイシックスに先制される。すごいぞ、オイシックス。負けるな阪神!
4回表、阪神が一挙6得点で逆転し、5-6で勝利。こうして新潟3連戦は終わった。
試合後、一塁側オイシックスの応援団が「タイガース」と連呼してエールを送る。
三塁側の阪神応援団も「アルビレックス!」とエールを返す。
客席から拍手が起きた。
戦う人の姿は心を揺さぶる。九回ツーアウトまで諦めない人にも。去年より確実に強くなったチームにも。
いい新潟遠征だった。