インタビューを音声でも!
好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、安部若菜さんのインタビューを音声でお聴きいただけます。以下の記事は音声を要約・編集したものです。
構想から悩み抜いて書いた小説
――前作『アイドル失格』のインタビュー で「2冊目も書きたい。次はもっと学生たちの青春に焦点を合わせたものを」と言っていましたが、まさにそういった作品になりました。
そうですね。今回は高校生5人が主人公で、芸能界という夢を目指す物語なので、本当に前回言っていた通りの青春なお話になりました。
――前作に続いて芸能界にまつわるストーリーでした。やはりこだわりましたか?
芸能界を離れたものを描こうかなとも思ったんですけど、やっぱり自分らしい小説って何だろうと考えた時に、アイドルをしている経験を活かせるものがいいなと思って。でも5人は本当に普通の高校生たちなので、あまり芸能界に詳しくない方にも楽しく読んでもらえる本を目指しました。そこは共感しながら読んでいただけるんじゃないかなと思ってます。
――前作はアイドルとファンの恋物語だったので、ある程度、期待した展開に沿って物語が進んでいく感じがありましたが、今回は意外な展開でした。ストーリーはいろいろ考えましたか?
今回はストーリーやプロットを考える時間が1年ぐらいかかったので、キャラクター5人もすごく悩んで出来上がったのが今回のストーリーです。夢に対するいろんな姿勢を描こうっていうことだけ決めて書きあげました。
――どんなところに悩んだんですか?
芸能スクールを舞台にするというのもなかなか最初決められなくて、この5人のキャラクターも、普通にいそうな子を考えてたんですけど、ストーリーとして面白くさせるにはどうしようと悩みました。
いちばん共感するキャラは
――トップパッターで登場するのはアイドルを目指す丸山莉子で、この子を中心に物語が展開するのかなと思いきや、実はそうではなかった。
莉子ちゃんをきっかけに物語が動き出しはするんですけど、5人全員が本当に絡み合う話にしたかったので、誰が一番メインと言われたら迷うぐらいの関係性になりました。
――莉子は触媒のような、いちばん芸能界とは縁遠いというか、素人に近い感じの子ですが、他の子がみんな莉子に何かしら刺激を受けていきます。
そうですね。5人全員をつなぐ役割をしてるのが莉子で、その子がいちばん普通の女子高生というのもポイントなのかなと思います。
――みんなそれぞれ大きな夢を持っているけど、なかなか思い通りに行かなくて、自分にないものを持っている他のメンバーに気後れしたり嫉妬したりします。
5人の中でいちばん秀でたものはないんだけど、でもそんな子がいろんな才能を持ってる4人に影響を与えていくというのが面白いところなのかなとも思います。
――藤原美華の章は、ホラーみたいでしたね。夜中に怖がりながら読みました。
嬉しいです。美華はかわいそうなシーンもあって、追い詰められていくところもあるんですけど、できるだけ怖く書くのと、精神的ストレスをどれだけ文章に落とし込むかはこだわりました。普段は明るい、ちょっとギャルっぽい女の子なので、そんなつらい目に合わせてしまってごめんと思いながら書いてました。
――読んでいくと、つむぎという登場人物が安部さんにいちばん近いのかなと思ったんですけれど、ご自身では誰が近いと思いますか?
自覚はなかったんですけど、別の取材の時もそう言って頂いたので、びっくりしてます。自分がいちばん共感するのは純平っていう、自分が普通であることにコンプレックスを持っていて、特別になりたいと思ってる男の子なんですけど。
夢に悩む10~20代に寄り添えれば
――芸能界は全てが競争です。全員を蹴落とすつもりでないとやっていけないと考えてください。
――結果が出ると分かっているならだれだって努力します。分からないのに努力し続ける人にこそ価値があって、そういう人がいつか純平さんの言う『特別』になれるんじゃないですか。
『私の居場所はここじゃない』
――これ、安部さんの芸能界でやってきた実感かなと思いました。
確かにそうかもしれないですね。私もNMB48でもがきながら7年目になるんですけど、今も60人ぐらいいるので、人と比べられる環境で育ってきたからこそ、今回の話になったのかなと思います。
――今まで練習してきたことはどんなメンタルでも勝手ににじみ出るからだいじょーぶ
――ずっとそこにいてもいいと思える居場所なんて、多分この世の中のどこにもない。運命的な出会いや、夢中になれる何かも、ある日突然舞い降りたりはしない。…自分自身が一歩踏み出すかどうかだけ。
『私の居場所はここじゃない』
――ここは安部さんがこれまで歩んできた道乗りを経ての、同世代へのエールだなと思って読みました。
そうですね、自分も今まで言われて来たような言葉だったりします。
――『私の居場所はここじゃない』というタイトルに込めた思いは。
ずっと「居場所って何だろう」と5人が探していて、「夢」というものを通して居場所を見つけにいくんですけど、私が今、夢を叶えた場所でアイドルをしてきた中で、夢のいろんな面を見てきたからこそ出て来る言葉とかもあるのかなと思いますし、夢に悩んでいる人にもぜひ読んでほしいですね。
――改めて、今作はどんな人が読んでくれたらいいと思いますか?
やっぱり10~20代、夢を追いかけていたり、「何かにならなきゃいけない」みたいなプレッシャーで悩んだりしている方が読んで、少しでも寄り添えるような話になったらいいなと思います。もう大人になった方でも「まぶしい」って思いながら楽しく読んでいただきたいです。人間関係の微妙な細かいところもこだわっているので、ぜひたくさんの方に読んでいただきたいです。
いつか「小説家」になれたら
――2作目を書き終えて自信は出ましたか?
1歩階段を上ったような気持ちはあります。でもまだまだ「アイドルが小説を書いている」っていう感じなので、いつか「小説家やな」ぐらいの存在になれたら嬉しいなと思ってます。まだまだこれからだという気はしています。
――次を書くと3作目になりますけど、いよいよ作家としても正念場という感じになってきますね。何か構想は?
私、もうすぐ大学を卒業するんですけど、大学にいるうちに大学生の話とか書けたら面白いな、とも思っています。
――忙しいですけど、大学生活は楽しめてますか?
サークルも入ってないので、大学生らしいことはそんなにできてないんですけど、でもいつも学食で美味しく食べてます。
――仕事があると、学校に行って授業に出るだけで大変かもしれないですね。目標にする作家や、参考にしている作家とかはいますか?
もう本当に恐れ多いんですけど、憧れてるのは凪良ゆうさんです。
――前回 も『汝、星のごとく』が良かったと話していましたね。
もうずっと大好きですね。一筋縄ではいかないお話が好きで、自分もそんなお話を書けたらいいなと思ってます。
――最近読んで面白かった本は?
佐原ひかりさんの『スターゲイザー』(集英社)。これもアイドルをテーマにした本だったんですけど、男性アイドルのデビュー前を描いた小説で、アイドルとしても共感するところも多かったですし、でも自分の知らない世界でもあって、すごく楽しく読ませていただきました。
――アイドルをテーマにした小説を読んでいると、「ここは違うな」と思ったりしないですか?
私もそれがあるのかなと思ったんですけど、性別が違うので、仕組みが違うところがあるとはいえ、楽屋で話してる内容も「こんな会話したことある」とか、メイク道具を回して貸し借りするとか「もう、やってる!」みたいなことが多かったので、読んでびっくりしました。
アイドルが読むように書かれていないのかもしれないんですけど、すごく共感するところも多くて、切なくなりながら、でも出て来るメンバーを推したくなる気持ちで読んでました。
【好書好日の記事から】