ボーイズラブの書き手として世に出た凪良(なぎら)ゆうさんが、異性愛の恋愛小説に真っ正面から取り組んだ。新刊『汝(なんじ)、星のごとく』(講談社)は、網のようにまとわりつく地縁、血縁に手足をとられながら、互いへの恋情にもがく男女が主人公。17歳からの15年間を描き、読み手に「自分の人生をどう生きるか」を容赦なく問いかける。
瀬戸内の陽光あふれる小さな島。高校生、井上暁海(あきみ)の家庭は、父が島外に恋人をつくり家を出たため、島中のうわさの的となる。おしゃべりが娯楽のこの島では、母が男を追って京都から島に来た転校生の青埜櫂(あおのかい)にも、好奇のまなざしは及ぶ。2人は互いにひかれ、卒業後はともに島を出て上京することを誓う。
「今回は書いていて一番苦しかったかもしれない」と話す。「私は登場人物の中に入り込んで書くタイプ。暁海も櫂も迷い続けるしんどい展開が続いたので、書いている私もとても苦しくて、何度も書く手が止まりました」
暁海の父の恋人、瞳子は櫂にいう。〈いざってときは誰に罵(ののし)られようが切り捨てる、もしくは誰に恨まれようが手に入れる。そういう覚悟がないと、人生はどんどん複雑になっていくわよ〉。その言葉のとおり、漫画原作者としての才を見いだされた櫂は島を出る一方、家庭に戻らぬ父にふさぎ込む母をそのままにできない暁海は島に残り、やがて2人は互いへの思いはありながら、どうしようもなくすれ違いはじめる。
暁海が悩みを打ち明ける高校時代の恩師も、櫂を励まし続ける編集者も、世間が求める「正しい」恋愛はしていない。「みんな、それぞれの正義があって生きている。その生き方を全うさせる書き方をしたと思います」
様々な生き方に触れ、悩み抜いたことが、32歳の暁海にとって、櫂についてのある重大な決断につながっていく。「すがすがしく、正しくないことをする。あのシーンにたどり着いて、それまでぐっと重かった空気が一瞬でほどけた」
「結局は(人間関係を)捨てても捨てなくても、味わう痛みは同じ。どっちの痛みを選ぶか、ということでしかない」と凪良さん。「人と関わりながらも、自分でその一つ一つを選んでいく、という小説になったと思う」
執筆中、自分の考えが前面に出すぎて、削除してはまた書いて、を繰り返した。「私自身、人と同じになれないことを誰かに許してほしいのかもしれない。書くことで何か自分の内側を整理しているようなところもある。この物語を書いて、ちょっと楽になりました」(興野優平)=朝日新聞2022年8月31日掲載