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地域や文化での違いを明かし、多元的思考を説く「論理的思考とは何か」 高谷幸の新書速報

  1. 『論理的思考とは何か』 渡邉雅子著 岩波新書 1012円
  2. 『入門講義 現代人類学の冒険』 里見龍樹著 平凡社新書 1210円

 論理的思考の方法として、〈主張―根拠―結論〉という形からなるアメリカ式エッセイの書き方を習った人もいるかもしれない。(1)は、このような、論理的思考を世界共通で不変のものとする発想に異議を唱え、論理的かどうかは社会的な合意によって成り立ち、領域や文化により異なる論理的思考があると論じる。具体的には、経済、政治、法技術、社会について、各領域を代表するアメリカ、フランス、イラン、日本の作文からそれぞれの論理を抽出し、その違いを明らかにする。それは、論理的思考が価値に紐(ひも)づけられていることを意味する。その上で、目的や価値に沿って必要な論理を選択する多元的思考の必要を説く。

 世の中の支配的な価値観や自らが抱いている常識を問いに付し、生の多様なあり方を明るみに出してきた学問が人類学である。(2)は、現代の人類学の動向を、著者の研究にも触れつつ講義形式で展開する。入門と銘打ち平易な言葉で書かれるが、扱われるのは最先端の課題だ。そこでは、これまで一つの社会や民族に一つの文化という形で用いられてきた「文化」という概念もまた、他者を固定的な枠組みに閉じ込めてしまうものとして反省的に捉えられる。

 両書は文化概念への距離の取り方にかんし対照的な立ち位置にあるが、興味深いのは、どちらも人間と自然の関係性を問い直す思考を今日の課題としている点だ。人文社会科学の現在地が表れているといえよう。=朝日新聞2024年12月21日掲載