15日に決まった第172回芥川賞・直木賞の受賞作は、どのように評価されたのか。選考委員の講評から振り返る。
芥川賞は安堂ホセさんの「DTOPIA(デートピア)」(河出書房新社)と鈴木結生(ゆうい)さんの「ゲーテはすべてを言った」(朝日新聞出版)に決まった。1回目の投票で鈴木さんが票を集めたが、候補5作品について議論を重ねた末の再投票で安堂さんが拮抗(きっこう)、2作受賞となった。5回目の候補入りだった乗代雄介さんの「二十四五」(講談社)は次点だった。
選考委員を代表して島田雅彦さんは「5作のなかで最も過剰な2作。過剰さの質は異なっているが、勢いのある2人の受賞となった」と語った。
「DTOPIA」については「テーマてんこもりの過剰さが目立った。カラードやセクシュアルマイノリティーへの差別や偏見という過去作品に通底するテーマが、逐一のエピソードにしっかり落とし込まれている」と島田さん。
「ゲーテはすべてを言った」は、「ゲーテのペダントリーをここまで過剰にたたみかけるのはたいしたもの。3世代にわたる文学研究者の話が中心で、読み進めると極めてエンターテインメントとして完成度が高い」と評された。
直木賞は伊与原新さんの「藍を継ぐ海」(新潮社)に。選考委員の角田光代さんによると、最初の投票から「ダントツに高得点」だった。次点の荻堂顕さんの「飽くなき地景」(KADOKAWA)、月村了衛さんの「虚の伽藍(がらん)」(新潮社)の受賞も検討されたが、そのまま1作受賞になった。
「藍を継ぐ海」は科学的なトピックを題材に、日本各地の田舎町を舞台にした短編集。
角田さんは「歴史や科学といった、人知の及ばない非常に大きなものを書きながら、人間の小ささを対峙(たいじ)させるのではなく、私たちが持つ小さな悩みを自然と同じくらい大きなものとしてとらえて共存させた姿勢がすばらしい」と述べた。(野波健祐)=朝日新聞2025年01月22日掲載