もし小説界にルーキー・オブ・ザ・イヤーがあったなら、金子玲介さんは昨年の有力候補だったに違いない。メフィスト賞受賞作「死んだ山田と教室」(講談社)で5月にデビューして以来、半年で3作を刊行。それぞれに趣向の異なる一風変わったミステリーだ。
とにかく物語の導入がうまい。「死んだ山田と教室」は夏休みに急死したクラスの人気者が新学期早々、教室のスピーカーに憑依(ひょうい)して級友たちと話し始める青春もの。2作目の「死んだ石井の大群」(同)は白い部屋に集められた333人の石井が強制参加させられるデスゲームもの。そして最新作「死んだ木村を上演」(同)もまた奇妙に開幕する。
かつて同じ大学の演劇サークルに属した4人のもとに脅迫状が届く。〈誰が木村を殺したのか、八年前の真実を知りたければ、2024年1月9日14時、雛月(ひなつき)温泉の宿・極楽(ごくらく)へ来い〉。サークルの中心人物だった木村の死は警察が自殺と判断していた。だが、それぞれに秘密を抱える4人は事件のあった宿に集い、8年前のやりとりを木村の発話を含めて「再演」し、死の真相を探ろうとする。
金子さんは1993年生まれ。高校2年の国語の授業で読んだ太宰治「晩年」にひかれ、小説を書き始めた。会計士として働きながら純文学の賞に応募するも落選続き。文芸賞には9年連続で応募した。諦めようと思ったが、作家志望仲間にエンタメ転向を勧められ、書いてみたら開花した。愛読してきた舞城王太郎さんや佐藤友哉さんと同じメフィスト賞で。
「死んだ木村を上演」には、そんな雌伏の時期が反映されている。三十路(みそじ)を迎えた4人は卒業後、別の道を歩んできた。演劇界で名を馳(は)せた者と舞台でくすぶる者、芸能人として花開いた者と一般企業に勤める者。4人が過ぎ去りし青春を懐かしみながら、木村の死をめぐり、腹の探り合いをするのが読みどころだ。
「10年以上小説を書いてきて、たまたま作家になれたけど、なれない世界線もあったはず。それを演劇に置きかえて、かつて夢を持っていた人々が何年か後に対話する会話劇のような小説を書きたかった」
3作にはタイトルだけではない共通点がある。限定された物語空間、登場人物たちの軽妙な会話、生と死について読み手に思索をうながす展開。いずれも奇妙な導入の先に予想外の結末が待っている。
デビューが決まってからほどなくして、専業作家になった。とはいえ、刊行ペースが速い。なぜそこまで書けるのか。
「書いていないと落ち着かないんです。ガチな本格ミステリーも書きたいし、誰も死なない話も書いてみたい。常に四つも五つもアイデアがあって、それを頭の中から出すまでは死ねないと思ってます」(野波健祐)=朝日新聞2025年1月22日掲載