
ISBN: 9784865284485
発売⽇: 2024/12/31
サイズ: 2×18.8cm/328p
「フェミニスト・ファイブ」 [著]レタ・ホング・フィンチャー
そこは女性にとって、安全な国ではない。
電車に乗れば痴漢に遭い、男性からのレイプはあちこちで起きているが、その被害は放置され、自衛するしか手立てがない。性加害を訴えたところで彼らが問われる罪は驚くほど軽い。大学入試すら男女は平等でなく、合格するには女性はより高い得点を要求される。未婚を「恥」のように思わせておきながら、いざ結婚すれば無償の労働力として搾取される人生が待っている。配偶者を所有物のように思う男性も少なくなく、家庭の中にも暴力がある。彼らは女性たちを産む機械とみなすが、妊娠してもお腹(なか)の中にいるのが女の子なら、その命は歓迎されない。国は経済発展を遂げ豊かになったところで、恩恵を女性に分け与える気はない。むしろ保守化が著しく、家父長制的支配を強化させつつある。
……日本と見紛(みまご)うほど酷似しているが、中国のことを書いた本だ。勿論(もちろん)あちらの状況は相当に厳しい。なにしろ地下鉄やバスでの痴漢行為に反対するステッカーを配ろうとしただけで、逮捕されてしまうのだから。この事件が起きたのが二〇一五年、三月の国際女性デー直前のことだった。
逮捕された五人の活動家が約一カ月の勾留から釈放されると、彼女たちは権威主義国家に対抗するシンボルとなった。その名も〈女権五姉妹〉フェミニスト・ファイブ!
二〇一〇年代は世界各国でソーシャルメディア革命が起きた。問題意識を持ち寄った人々の議論の場となり、共通の怒りを噴出させ、連帯が実現。中国版ツイッターとして誕生した微博(ウェイボー)でも同様の現象が起きた。初期は〝微博の春〟だったと回想される。しかしわずかな自由もビッグブラザー(独裁者)は見逃さない。ネットの検閲と監視の締め付けは強まるばかり。
姉妹たちの声を拾い集め、性差別をめぐるネットの動向をまとめる。この本の日本版、いや、世界各国のあらゆるバージョンを、私は読みたい。
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Leta Hong Fincher 米国のジャーナリスト。中国についての報道に寄与したとして、シグマ・デルタ・カイ賞を受賞。