
ISBN: 9784103020332
発売⽇: 2025/01/29
サイズ: 19.7×2.4cm/256p
「天使は見えないから、描かない」 [著]島本理生
あぁ、そうか、私が島本さんの物語を読み継いできたのは、この第三章「ハッピーエンド」に辿(たど)り着くためだったのか、とさえ思った。これまで、濃密な愛を描いてきた島本さんのひとつの到達点。それが、本書だ。
物語のヒロインは33歳で弁護士の永遠子(とわこ)。彼女には晴彦という夫がいるのだけど、この晴彦が、なんというか絶妙にヤな感じ。表面的には彼女を尊重しているようで、その実、自分ファーストを譲らない。永遠子が、笑顔の奥の冷めた心で晴彦を受け入れているのは、晴彦以外に愛する人がいるからだ。「遼一さん」と呼ぶその人と、定期的に夜を共にすることで、永遠子は自分の輪郭を保っている。
遼一さんというのは、永遠子の父親の弟、つまりは叔父である。あ、この時点で無理っ!と思う人、きっといますよね。でも、でも、お願いだから最後まで読んで欲しい。小学三年生の永遠子が、どうして「遼一さん」に惹(ひ)かれてしまったのか。親族のなかで、彼だけが永遠子を守ってくれたその事実が、彼女にとってどれだけの救いだったのか。
晴彦の不倫(所詮〈しょせん〉そんなやつだよ!)が原因で離婚した永遠子は、その後、年下の男性と付きあうも、結局は永遠子から別れを告げた。遼一じゃなければだめなのだ。どうしても。
インモラルだと知りつつも遼一しか愛せない永遠子。その永遠子の想(おも)いを受け止める遼一の覚悟。二人のドラマはこれまでの島本さんの作品同様、蕩(とろ)けるような甘やかさとひりつくような切なさがあるのだが、本書は、そこに永遠子の親友・萌を絡めたことで物語がさらに広がった。
永遠子が本当に愛しているのは叔父の遼一だと見抜いた萌は、二人の関係を「不健全だ」とは言うけれど、それは永遠子のことを案じてのことなのだ。物語のラスト、永遠子と萌、二人のその背中が、尊くて、愛(いと)おしくてたまらない。
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しまもと・りお 1983年生まれ。『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、『ファーストラヴ』で直木賞。