1. HOME
  2. 売れてる本
  3. 高橋和巳『子は親を救うために「心の病」になる』 悩むあなたは「生き直せる」

高橋和巳『子は親を救うために「心の病」になる』 悩むあなたは「生き直せる」

 心の専門家が書いた、やさしさに満ちた本。心の病や悩みを抱える人に「あなたのせいじゃない」と言いながらも、ほかの誰かを責めているわけではない。

 生まれ落ちた子どもは世界に適応するために「心理システム」を作っていく、と精神科医である著者は言う。そのとき決定的な影響を与えるのは親、とくに母親だ。だから多くの人は次のように生きていこうとする。本書から引用しよう。

 「この世界に生まれて、大切な親に認めてもらうために頑張る、その最初の頑張りが、そのまま人生の最後まで続く頑張りである」

 人の長い一生をこんなにシンプルにまとめた言葉があろうか。「いやそんなことはない」と本書に出てくるように家庭内暴力という形で反抗しようと、認めてくれるはずの親に虐待されて途方に暮れようと、あるケースで子がつぶやいたように「結局、私は親から逃れることができない」という結果に行きつく。だからこそ、あなたが苦しんでいる摂食障害や引きこもりなどは、決してあなたのせいで起きているわけではない、それどころか親を救うためにそうなった可能性が高いのだ、といった説明にも説得力が増す。

 では、親との間で作られる心理システムがうまくいかない人は、一生、救われないのか。著者はそうとも言わない。カウンセリングで「大変だったということを分かってもらえる」とか、親自身が抱える問題や障害を誰かに説明してもらって理解し受け入れるとかすることで、新しい生活感、存在感を自分で手に入れることもできるのである。

 あなたが悪いわけじゃない。だからといって親だけが悪いわけじゃない。あなたは生き直せる。こんなメッセージにあふれた本を求めている人はいつの時代も多いだろう。今後も長く読み継がれるに違いない。=朝日新聞2026年5月16日掲載

    ◇

 ちくま文庫・880円。14年4月刊、29刷9万200部。単行本は10年3月刊。担当者は「SNSでの反響が大きい。なんとなくうまくいっていないと感じる読者が、モヤモヤを言語化してくれる本として読んでいるようです」。