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子育てインフルエンサー・木下ゆーきさんの絵本「はぶらしロケット」インタビュー 子育ての大変さ、笑いに変えて

木下ゆーきさん=北原千恵美撮影

歯ブラシをロケットに見立てたら子どもに大ウケ

――絵本シリーズを出すことになったきっかけを教えてください。

 Gakkenさんから、僕が発信している子育てのアイデアを絵本にしませんか、というお話をいただいて、絵本はまだやったことがなかったので挑戦したいなと思いました。うちの子どもたちも絵本が好きなのでうれしかったです。シリーズ1作目の『はぶらしロケット』に出てくるアイデアは、苦しまぎれで生まれたもの。子どもたちが歯磨きをするのが大嫌いなので、いつも体を足で押さえつけて、プロレスのように磨いていたんですけど、あるとき苦し紛れに歯ブラシをロケットに見立てて、「発射! プシューッ、ビューン、歯ブラシ落ちてきた、落ちてきた、ワー」ってやってみたんです。そうしたら、子どもが必死に歯ブラシを口の中に入れようと、口を大きく開けて、歯を磨かせてくれたので、「あ、これ使えるかな?」って。うちの子どもたちに試して効果があったものを絵本にしたので、同じように効果があるお子さんが多くいるんじゃないかと思います。

「はぶらしロケット」の動きを再現してくれる木下さん

――子どもは、なんで歯磨きを嫌がるんでしょうか?

 楽しくない作業だからじゃないかと思うんですよね。ただ口を開けてじっとしておかないといけないだけで、楽しさがない。歯ブラシをロケットにしたことで、口に入れられるかというゲーム性が濃くなったので、子どもが楽しんで参加できるポイントになったのかなと思います。僕のSNSのフォロワーの方にも、読者モニターをしていただいて、97%の親子が効果を実感していただきました。でも、子育てって、今日、うまくいったからといって、明日もうまくいくとは限らないのが難しいところですよね。逆に、今日うまくいかなくても、別の日に違う形式でやってみたらうまくいくかもしれないので、困ったときに、あんなアイデアあったなという、引き出しの一つとして頭の片隅に置いといてもらえたらうれしいですね。

『はぶらしロケット』(Gakken)より

「はぶらしロケット」を実践しようとすると、声かけの仕方はどうしたらいいのか迷う方や全力でやるのが恥ずかしいという方もたくさんいらっしゃると思います。でも、絵本で、小さいうちから親子で読んでいれば、「はぶらしロケットやるよ」という声かけ一つで、あの楽しいゲームが始まるんだって子どもに思ってもらえるかもしれません。そうすれば、親の負担もかなり減ると思うので、まだうちには早いかなと思う方も読んでもらえたら、長く使えるワザになるんじゃないかなと思います。ロケット以外の乗り物が好きなお子さんだったら、ロケットの部分を他の乗り物に変えてみたり、ご飯を食べるのが苦手な子には、歯ブラシをスプーンに変えて食事の時に試してみたり。いろいろアレンジできると思うので、この本をきっかけに、それぞれの家庭でカスタムを加えていってほしいなと思います。

――絵本を作る上で、こだわったところはありますか?

「はぶらしロケット」が口の中に到着すると、バイキンたちが口の中でパーティーをしているんですけど、バイキンたちがいろんな行動をしているのが楽しいです。アートユニットのuwabamiさんに絵を描いていただいたのですが、こういうバイキンを入れてほしいと具体的なイメージを伝えてお願いしました。女の子を口説いているバイキンがいたりして、大人にしか伝わらない面白さも入れ込んでいます(笑)。どのバイキンが好きか、親子で指さしするのも楽しいと思いますし、歯磨きをするときに「あ、歌ってるバイキン見つけた!」「こっちには、タンバリンを叩いてるバイキンがいる」など声かけすると、子どもの気をそらせる時間を延ばせるので、そういう方法で活用してもらうのもいいですね。

『はぶらしロケット』(Gakken)より

 絵本の表紙の裏には、はぶらしロケットの効果をより増幅させられるアイデアも入れました。例えば、口を開けたときに「あ〜って高い声だせる? できるかな? 難しいよ?」って声かけすると、子どもの負けず嫌い精神を突くことができるので、「あ〜」って言っている間に磨くことができるとか。大人向けのコツを書いているので、うまく利用してもらえるとうれしいですね。このページは、子どもにバレにくいように、漢字を多めに入れております(笑)。

子育ては長距離走 息切れしないように

――『はぶらしロケット』は、シリーズ第1作。今後、ごはんをテーマにしたもの、トイレをテーマにしたものと続くそうですね。歯磨き、食事、トイレの3つをテーマにしたのはなぜですか?

 どれも子育ての中で、もうほんとに大変でストレスが溜まるシーンですよね。僕も経験したし、子育てをしていたら避けては通れない苦しみの多いシチュエーションなので、ちょっとでもストレスを和らげることができればいいなという思いから選びました。

 食事はやっぱり大変ですよね。うちも、一番上の子が小さいときに、朝ごはんをなかなか食べてくれなくて苦労しました。保育園にいくのに、全然、食が進まなくて、結局食べきれないまま連れて行くこともありました。どうすればいいんだろうって悩んで、朝、起きる時間を30分早くしてみたんです。早起きして家の周りをちょっとお散歩してから朝ごはんを食べさせたら、すごい食べてくれたんです。これが効くんだ!と思ったんですけど、朝30分早く起きるというのに、僕が耐えられなくて、1週間続かなかったです(笑)。

 トイレは、まずトイレに入りたがらない、便座に座りたがらない。最初のステップを乗り越えた先には、またいろんな壁が待っているんですけど、まずその第1の壁を乗り越えていただきたいという思いから作りました。

 子育ては、短距離走じゃなくて、長距離走なので、親もストレスがかからないように上手く長くやり続けるのが大事だと思います。『はぶらしロケット』もそうですが、どの作品も親子で楽しみながらできるアイデアを軸に作りました。

子育てを楽しむアイデアはピンチのときに生まれる

――SNSで、笑いを交えた子育て情報の発信を始めたきっかけはありますか?

 とある虐待事件がきっかけです。最初にその事件を知ったときに、なんてひどい親なんだって思ったんですけど、いろいろ調べていくうちに、虐待の要因には、産後ウツや育児ノイローゼというのがあるんだと知りました。思えば、僕も子どもが小さいときに、夜、なかなか寝てくれなくて、ぐずっている息子を抱いて真っ暗な部屋の中を2時間歩き続けたことがありました。そのときに、何気なく開いたSNSで、結婚していない友だちが居酒屋でビールジョッキを片手に楽しんでいる姿を見て、すごく孤独感に苛まれたんです。僕と同じように子育てで悩み苦しんでいるパパやママがSNSを開いたときに、孤独を感じるのではなく、クスッと笑えるコンテンツを発信できないかなという思いからSNSで子育て情報を発信するようになりました。

――話題になった「おむつ替え動画」のアイデアはどんなところから?

 あれは、いつも妻を笑わせるためにやっていたものを妻が笑いながら撮っていて、それを投稿したらすごく拡散されたんです。僕としては狙って作ったわけではなかったので、こんなにありのままの木下ゆーきで楽しんでくれる人がいるのかと、驚きました。おむつ替えも、毎回、同じことの繰り返しの作業で面白みがなかったので、楽しまなきゃやってられないという気持ちで始めたら、たくさんの方に喜んでもらえたという感じです。

「はぶらしロケット」もそうですけど、これをやってみたら上手くいくかもしれないと常に考えているわけではないんです。子どもが全然いうことを聞いてくれない、もうどうしようっていうときに、投げやりな気持ちでやってみたら、たまたまそれがハマって、というものが多いですね。なので、僕の子育てのアイデアが多ければ多いほど、それだけ苦労してるんだなと思ってください(笑)。

――発信を始めて、ご自身の変化はありましたか?

「子どもが生まれてから笑ったことがなかったんですけど、木下さんの動画を見て久々に声を出して笑いました」といったコメントをいただくことができて、ものすごくやりがいを感じています。僕自身もみなさんのコメントに支えられているので、楽しく子育てに向き合うことができているなと感じます。といいながら、毎日、子どもたちに声を荒らげて怒っていますけどね(笑)。

――木下さんの動画を見ていると子育てを楽しんでいるように見えますが、楽しむコツはありますか?

 楽しそうな部分しかSNSにあげないだけで、コツなんてないですよ。子育てで余裕のないときは動画を撮る余裕もないので、僕の投稿頻度が落ちているときは、「今日もゆーきさん、どこかでお子さんを怒っているんだろうな」って思ってもらえたら(笑)。子育ては、大変な割合のほうが多いので、楽しまないとやってられない、逆に楽しんだほうが得じゃんという感覚で、半ば強引に自分の感情を捻じ曲げているだけです。でも、大変さが大きければ大きいほど、あとで振り返ったときにこんなこともあったなって、クスッと笑えるので、メモを残したり、大変なときに写真を撮っておいたりするといいと思います。悲惨なことが目の前で起きたら一枚写真に撮って、スマホに「悲惨な光景」というフォルダを作って入れておけば、後々、親子で見返したときに、「わー、こんなことやってたよ」って笑えるようになるので、大変な人は使えるライフハックかなと思います。と言っても、なかなかできないのが子育てなんですけどね(笑)。

「はぶらしロケット」も、我が家でも毎回やっているわけではなくて、ほんとに自分の心と時間に余裕があるときにしかやっていません。もしかしたら「うちは、こんなふうにやってあげられてないな。ダメな親だな」とか、「木下さんのところは、こんな楽しいことを毎回やってあげられているんだな」みたいに勘違いされている方もいるかもしれませんが、僕もみなさんと同じで、ほんとに余裕のあるときしかやってあげられてないので、ほんとに余裕があるときに、ふと思い出して試してみてください。

――絵本『はぶらしロケット』が多くの方に届くといいですね。

 子育てはストレスの多い作業の連続なので、みなさんのストレスが少しでも軽減されればと思っています。絶賛子育て中の方はもちろん、まわりで子育てをしている方にも贈っていただけたら。

 僕も子育てされているみなさんと同じように、子どもに対してイライラしますし、声を荒らげて怒りますし、不機嫌な感じをあえて出して、その圧で子どもを動かそうとするようなこともあります。子育てに悩み苦しみながらなんとか耐えて、毎日過ごしています。これからも、ほどほどに、頑張りすぎないように子育てをやっていきましょうね。

インタビューを音声でも!

 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、木下ゆーきさんのインタビューを音声でお聴きいただけます。