
上村裕香(ゆたか)さんは、デビュー作「救われてんじゃねえよ」(新潮社)で、悲劇的に描かれがちなヤングケアラーの物語に抵抗した。描きたかったのは、母の介護で生じた「笑い」だった。
表題作は、第21回「女による女のためのR―18文学賞」の大賞に選ばれた。
2000年生まれで、高校時代に難病の母を介護した経験がある。後に、ヤングケアラーという言葉が広まった。だが、自身に近しい境遇の物語に触れ、反発心が芽生えた。
大げさなくらい同情してくれる教員や、「家族に絆があるからケアできる」という価値観――。難病の母を介護する主人公の沙智(さち)も、そうした「枠組み」に押し込まれまいと抵抗する。
「定型の物語」に対抗するため、上村さんは笑いを持ち出した。「悲劇の外側にある、喜劇的なものを書きたかった。小説だからこそ書けるリアルがあると思う」
沙智は、トイレに行く母を立ち上がらせようとして、一緒に床に倒れ込んでしまう。絶望的な状況で、偶然テレビから流れた小島よしおの「でもそんなの関係ねえ!」というネタで爆笑する。
上村さんも、母と何度も一緒に倒れて、笑えてきたことがあった。同賞の応募作を考え始めた際、このシーンがぱっと浮かんだ。「人に話しても『大変だったね』と言われてしまう、あの時の笑いを書いてみたらどうなるんだろう、と」
高校のころ、全国大会に出した作品が2位になり、「すごく悔しくて、小説に対して本気になれるかもしれないと思った」。今作は、そんな思いで進んだ京都芸術大のゼミ仲間にも読んでもらい、完成した。
現在は、同大学院で学ぶ。これからも「固定観念にカウンターパンチを打つ、喜劇を書いていきたい」。(堀越理菜)=朝日新聞2025年4月30日掲載
