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「可視化される差別」書評 膨大な研究もとに明晰な説明

評者: 高谷幸 / 朝⽇新聞掲載:2025年05月10日
可視化される差別―統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義 著者:五十嵐 彰 出版社:新泉社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784787724182
発売⽇: 2025/02/26
サイズ: 13.7×19.5cm/432p

「可視化される差別」 [著]五十嵐彰

 差別はあからさまな場合もあるが、圧倒的に多いのは差別か否か合意がないものだ。例えば、差別と指摘された側が、「差別する意図はなかった」と否定する例は珍しくない。あるいは周囲とは異なる不利な扱いをされた場合でも、それを差別と確信できない場合もあるだろう。相手は「『いい人』なのだから」と自らを納得させる場合もあるかもしれない。
 しかし差別とは、行為者の意図や人格に還元できるものではない。本書は、移民やエスニック・マイノリティにたいする差別を「国籍や人種・文化的出自を理由に異なる扱いをすること」と定義する。その上で差別とは何か、どのように捉えられるのか、その原因や効果に関し、主に英語で発表された膨大な研究を整理、紹介する。例えば、日本でも就職差別が存在することや、差別がマイノリティの健康を損なうことが示される。
 専門的な内容だが、著者の明晰(めいせき)な説明が理解の助けになる。何より捉えがたい差別を何とか可視化させようとする努力が積み重ねられてきたことを伝える書籍だ。