- 『私雨邸の殺人に関する各人の視点』 渡辺優著 双葉文庫 935円
- 『存在のすべてを』 塩田武士著 朝日文庫 1089円
- 『サプライズ・エンディングス 噓(うそ)』 ジェフリー・ディーヴァー著 池田真紀子訳 文春文庫 1771円
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視点が変われば真実は変わる。それがわかっていてもなお、人は己の視点こそが絶対だと思いたがる。そして視点への執着にこそ、ミステリーの醍醐味(だいごみ)が宿る。
(1)は嵐の山荘「私雨邸(わたくしあめてい)」で起こった殺人事件を、ミステリー好きの大学生や館の主の孫など、関係者各人の視点から描いた小説。名探偵不在の状況下で、各々(おのおの)が自分勝手に調査と推理を展開する。多面的な切り口から事件の真相が浮かび上がるにつれ、人間の身勝手さを痛感させられる。ある人物の「人は信じたいものを信じる生き物ですからね」という言葉は、発言者自身を含めたあらゆる人間に突き刺さる。
「二児同時誘拐」という衝撃的な事件で幕を開けるのが(2)。誘拐された二名の男児は無事に帰るが、事件は未解決に終わる。発生から三十年が経ち、一人の新聞記者が旧知の刑事の死をきっかけに、取材に乗り出す。事件を忘れられないのは当時の捜査員たちも同じだった。彼らの執念深い調査の先に、ある写実画家が浮かび上がる。蛮行の裏に潜んでいた愛情が露(あら)わになるにつれ、「絶対の真実」など存在しないのだと気付かされていく。
(3)はミステリー界の巨匠による日本限定の短編集。四つの短編小説は、タイトルに違(たが)わずいずれも意外な結末を迎える。収録作品は、病院に運び込まれた麻薬取締課の刑事が同僚の裏切りを疑う「帰任報告」、現場にマトリョーシカを残す連続殺人鬼を捕まえるため、家族思いの刑事が策略を仕掛ける「ターニングポイント」など。どんでん返しの後に漂う、静かな余韻が印象に残る。=朝日新聞2026年5月23日掲載