絵本ナビ編集長おすすめの新刊絵本12冊は…? 「NEXTプラチナブック」(2025年8月選定)
【この記事で紹介する絵本】
「くもと めが あったことは ありますか?
わたしは いちどだけ、あります。」
女の子の目にうつっているのは、なんだか自分たちと姿が似ているくも。女の子は観察しながら想像します。くももおしゃべりをするのでしょうか。友だちになれるのでしょうか。くもと仲良くなれたら、きっと楽しいだろうな……。
【編集長のおすすめポイント】
「くも」というのは不思議です。見るたびに形を変え、空の色に染まり、常に移動していきます。手を伸ばせば届きそうな近さに感じることもあれば、果てしなく遠い存在のようにも感じます。言葉で説明すれば、「大気中に浮かぶ小さな水や氷の粒の集まり」ということになるけれど、やはりつかみどころのない存在なのです。しおたにさんの視点を通して描かれる「くも」は、まるで生きもののよう。気まぐれに小さな奇跡だって起こしてくれるかもしれない。そんな風に思わせてくれること自体が、この絵本を読む喜びなのかもしれませんよね。
「はじまったよ、はじまった!」
この感じ、絶対そうだ。女の子は玄関にランドセルを置くと、すぐに外へ飛び出します。通りを歩けば目に入ってくるのは麦わら帽子にビーチサンダル、サーフボードにひなたぼっこをするカメさん達。みんなはしゃいでるね。さあ、ねこちゃんも一緒に、トンネルをくぐれば……。五感で感じる初夏の1日。
【編集長のおすすめポイント】
外を歩きながら、吹く風やにおいで「夏がはじまる!」と確信できるこの感じ。なんて豊かな感覚なのでしょう。いつも通っているこの道も、久しぶりに会ったねこちゃんも、まだまだ冷たい海の水も、キラキラ輝いて見えてきます。作者の中にある、そして読者の記憶のどこかにある、あの忘れられない一日。絵本をひらくたびに蘇ってくるようです。
ページをめくれば、ぱっかーんと割れたすいか。水分たっぷり真っ赤に熟した断面から飛び出したのは、ひとつぶの「たね」。あれあれ、どこへ行った? アリやオタマジャクシになりすましたり、楽譜やひらがなの中に隠れたり。その逃げ方は自由自在。見つける楽しみがつまった、絵さがし絵本。
【編集長のおすすめポイント】
すぐに見つけ出せると思いきや、思ったよりもずっと馴染んでしまっているのがこの絵本の難しさ。いくら眺めても、見つめ続けても、逃げ出した「すいかのたね」が探し出せない! ……悲鳴をあげる大人が続出しています。対して子どもは案外すいすい見つけ出してしまうのも不思議です。ポイントは画面の中から浮かびあがってくる違和感。思い込みや雑念をなくし、しっかりと観察して。発見するコツを親子で話し合ってみると、着目点の違いが見えてくるかもしれませんよ。
いち、にの、さん! のかけごえで、ページをめくると……大きくなった! 見ているだけで、驚いたり、笑っちゃったり、嬉しくなってくるこの絵本。日本語、中国語、ベトナム語、韓国語、フィリピノ語、ポルトガル語、英語、ネパール語、スペイン語の9つの言葉で書かれている日本ではじめて出版される「多言語あかちゃん絵本」です。
【編集長のおすすめポイント】
多文化共生社会の実現に向け、多言語絵本が注目されています。けれど、まだ言葉もわからない赤ちゃんと読む「多言語あかちゃん絵本」、いったいどんな風に楽しめばよいのでしょう。その答えは、体験していく中で見つけていくのかもしれません。「いち にの さん!」を通して、赤ちゃんと大人が、大人と大人が、日本語と他の国の言葉が、通じ合っていく。お互いに「読める」喜びをかみしめ合う。まずは手に取ってみたくなる一冊です。
広いキッチンでコックさんがなにやら仕事中。たくさんのお鍋を火に「かけています」。タイマーを「かけています」。そして音楽をかけながら、じっくりことこと時間を「かけています」。声に出してみれば、思わずクスっと笑ってしまう【同音異義語×ナンセンス】絵本。
【編集長のおすすめポイント】
「かけています」の言葉を中心に、さまざまな場面が展開されていくこの絵本。コックさんが様々な状況でかけたり、かけないように気を付けたり。コックさんの丁寧で熱心な仕事ぶりを通して、「かけています」の意味を味わい尽くすのです。料理って、仕事って、そして日本語って奥深くて面白い! 前作『とっています』、そして本作『かけています』に続いて、次にチョイスされる言葉は何でしょうか? 続編が出るまで考えてみるのも楽しいですよね。
ガラスにほっぺをくっつけて、こちらを「じーっ」と見つめている男の子。いったい彼の視線の先には、なにがあるのでしょう? そこには私たちが忘れていたような、かつて心を掴まれていたに違いない、小さな驚きや、きらめく瞬間がぎゅっと凝縮されたような風景があらわれます。
【編集長のおすすめポイント】
「ぼーっ」とも、「じっと」とも、ちょっと違う「じーっ」。そこには、ずっと見ていられる心地良さ、観察していたくなるような変化、あるいは想像がふくらんでいく要素みたいなものがあるのかもしれませんよね。絵本を読んでいて思い出すのは、例えば母が来ていたワンピースの柄、車の窓ガラスの水滴の形、アリの巣の入口付近の忙しさ……案外、今でもその光景をくっきりと思い出せるから驚きです。上を向いていたり、下を向いていたり、みんなで一か所を見つめていたり。今度そんな子どもたちを見つけたら、そーっと一緒にのぞいてみようかと思うのです。
リスの楽しみは、きのこのポックと一緒に原っぱへ行って、大好きなクロツグミの歌を聴きに行くこと。けれど、今日はなぜかクロツグミがいません。あちこちを探しまわるうちに、二人は思いがけないところで見つけます。声をかけても静かに寝そべっているクロツグミからは、返事はなく……。「生命の終わり」に初めて遭遇する小さきものたちの一日を、あたたかく描きます。
【編集長のおすすめポイント】
この愛らしくておかしみのあるリスときのこのキャラクターに興味を持って読み始めると、少しびっくりしてしまうかもしれません。けれども、驚く様子や、とまどいながらも一生懸命考えていく場面を丁寧に見せてくれることこそ、この絵本の大事なメッセージにも思えるのです。悲しみは癒えることがなくとも、心から故人を偲ぶ方法について、この絵本は教えてくれています。大人になった自分の心にも沁みる一冊です。
朝、夢から覚めたワニは、身支度をし、朝食を食べ、外へ出かけます。行き交う人々でにぎわいだす街の中、ワニはいつもの道を通り、いつもの人とすれ違い、いつもの駅で地下鉄に乗ります。雑踏をぬけて向かう先はワニの仕事場です。そこは……? 子どもはもちろん、大人も楽しい、イタリア発の文字なし絵本。
【編集長のおすすめポイント】
人々が生活する街の中で、いかにも充実した暮らしを送っているように見えるワニ。気になるお店をチェックし、顔なじみとあいさつを交わし、満員電車をなんなくやり過ごす。一方で、仕事場でのワニはどうだろう。途端に雰囲気は変わり、細かな一切のことを気にせず、のびのび堂々とした姿を見せるのです。うーん、どちらがワニらしいワニ? いえいえ、どちらも魅力的。誇りを持った生き方をしているようで……というのは、私の勝手な解釈。さて、あなたはどう読むのでしょう。
せかいいち、笑顔が素敵な人がいました。大きな声で笑ったり、そっと微笑んだり。「ぶわっはっは」と騒がしくしたとしても、ひとりで笑い出したりしても、まわりの人たちはみんな、幸せな気持ちになりました。時には優しく、時には可愛く、女の子はその人の愛に包まれていたのです。けれど、ある日、その人の笑顔は消え……。
【編集長のおすすめポイント】
大切な人をなくした時、その悲しみとどう向き合えばいいのでしょう。これは大人になっても答えが出ない問題です。ましてや、小さな子どもたちの心を思うと、想像するだけで胸が痛みます。けれど、何よりも大事なことは、大切な人の思い出やぬくもり、そして大好きだった表情をいつまでも忘れないでいられることなのではないでしょうか。その上で、ゆっくり少しずつ、自分の中から生まれてくる新しい感情と向き合っていくことができれば……。「グリーフケア」の絵本の存在が、少しでも子どもたちの心に寄りそってくれることを願います。
「あなたのとなりを見てください ひろしまの子がいませんか」反戦平和の詩画人・四國五郎が書いた朗読詩「ひろしまの子」。今も世界中で争いがつづくなか、戦後80年の節目の年に、長谷川義史さんの絵で絵本化、出版されました。
【編集長のおすすめポイント】
詩の中で、繰り返し描写される子どもたちの死。広島に原子爆弾が落とされ、多くの人が被爆死したことは誰もが知る事実。けれど、そのことをどう捉えればいいのか、当事者ではない自分たちにできることはあるのだろうかと、茫然とした気持ちになってしまう人も多いはず。その思いの一端を引き受けてくれるのが、この絵本なのではないでしょうか。子どもたちの笑顔を見ながら、何を思い、何を考えていかなければならないか。バトンを受け渡されているような気持ちになるのです。
あの日、ぼくたちの人生は変わってしまった。1942年12月、ナチス・ドイツに抵抗するレジスタンス活動をしていた父親と息子は、捕らえられてナチスの収容所に入れられた。仲間とトンネルを掘って脱出をはかるが、あと少しのところで見つかってしまい、家畜用貨車で移送されることに……。ホロコーストの終結から80年目にあたる2025年1月27日に合わせて、イギリスで刊行された絵本を横山和江さんの翻訳で。
【編集長のおすすめポイント】
「なにかをしなければ二度ともどれない」。絶望と混乱の日々の中、そうやって行動を起こす決意をすることに、どれだけの気力が必要で、どれだけの恐怖と闘わなければならなかっただろうか。史実に基づいた物語だからこそ、その緊張がダイレクトに伝わってきます。この絵本のカバーの絵は、ホロコーストの犠牲になった人々やその時代を生きた人たちの写真を参考に描かれたのだそう。その表情は、80年後を生きる私たちへ「希望」を託しているようにも見えるのです。
10歳のおれ、12歳のわたし、7歳のぼく……。太平洋戦争中、子どもたちは、日々、何を感じ、どのように暮らしていたのか。子どもの頃、沖縄、広島、長崎、満州、樺太、東京、北海道、静岡、三重、長野、山梨、茨城などの各地で、空襲、原爆、地上戦、引き揚げ、疎開などを経験した方、中国残留邦人の方にインタビュー。子どもたちの語りを通して、戦争の理不尽とリアルを伝える絵本。数年後には失われるかもしれない、生きた声を伝える65篇。
【編集長のおすすめポイント】
終戦後80年。それはそんなに遠い昔ではありません。言うまでもなく、戦争を歴史として理解することは大事なことですが、同時に、多くの子どもたちが戦争を目撃し、言葉にならない体験をしてきたという事実も忘れてはなりません。平和が失われるということは、日常が一変するということ。大切な人がいなくなってしまうかもしれない、ということ。子どもたちの想像力をもってすれば、この絵本に描かれていることから、きっと多くのことを読みとっていってくれるのではないでしょうか。
絵本ナビ編集長がおすすめする「NEXTプラチナブック12選」はいかがでしたでしょうか。対象年齢も、あつかっているテーマもさまざま。気になった絵本があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。絵本ナビ「プラチナブック」連載ページへ