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医者と刀工を志す二人の女性の運命描く「志記(一)」 武川佑が薦める文庫この新刊!

  1. 『志記(一) 遠い夜明け』 髙田郁著 ハルキ文庫 792円
  2. 『真田武士(もののふ)心得(一) 右近純情』 井原忠政著 文春文庫 803円
  3. 『定本 中世倭人伝』 村井章介著 講談社学術文庫 1650円

 歴史物の小説、歴史書は難しそう……そういう人はおおかろう、評者もそうでした。年末年始の「最初の一冊」をセレクト。(1)は医者の家に生まれた美津(みつ)と、女刀工を祖母にもつ暁(ぎょう)、同年同日に生まれた二人が主人公。医者と刀工、女性には不適とされた職業を志す二人の運命は江戸で交わる。物語はゆるゆると時の移ろいを描き、情感豊かにはじまる。安心して身をゆだねてほしい。次巻が待ち遠しい時間もまた、読書の楽しみだ。

 『三河雑兵(ぞうひょう)心得』ほか戦国武士の爽快な物語を発表する著者の新シリーズ(2)のテーマは真田。すでに2巻目も発売中。「真田もの」の中でも着眼点が独自で、三河雑兵心得の主人公が登場するなど歴史小説好きにもおすすめ。姦計(かんけい)により父を失った武士、鈴木右近。彼は信濃の武将真田信幸に仕え敵討ちを誓う。王道のエンタメ展開に「難しそう」という不安も吹き飛ぶ。でも心優しい殿も、豪胆な殿の奥方もフィクションでしょ?と思ったかた残念、史実です。ほら歴史に興味がわいてきたでしょう?

 (3)は1993年岩波書店刊行。主に15~16世紀、中国、朝鮮、日本の境界に生きたマージナルな人とモノの交易を示した名著の増補版。倭語(わご)、倭服など海賊の標識とされるシンボルを用いた「倭人」は、民族的には中国人、朝鮮人、日本人の混成的な集団だった。彼らは対馬や東アジア、ヨーロッパと、銀などの海上密輸に深くかかわった。本書は歴史イメージが覆される驚きと喜びの連続だ。歴史はあなたに「発見」されるのを待っている。=朝日新聞2025年12月6日掲載