本に対する思いの「筋」を入れたかった
本の復元依頼シート 整理番号21
その本は、主人公が、
本が好き
でした。これって、どんな本でした?ヨシタケシンスケさん×又吉直樹さん『本でした』(ポプラ社)より
――千本ノックのようにリズミカルに返されるお話もあれば、「本が好きな小川くん」のお話など、心を揺さぶる物語も盛り込まれていますね。
ヨシタケ 第1弾の本と同様、最後にすごく長いお話を又吉さんがやってくださった。1冊の本としての緩急をつけたかったので、最後に長いやつをお願いし、その間に僕はその前と後ろを書きました。
――本の好きな小川くんの姿には、又吉さんご自身が投影されているのかな、と感じます。
又吉 そうですね。僕自身も投影していますし、打ち合わせで、ヨシタケさんや、編集者さん、みんなで本にまつわる話をしたときの、1冊の本に対する思いの「筋」みたいなものを入れられたらいいな、と思って。
ヨシタケ 最後に書いてくださっているので、今までの物語が出揃ったとき、そこに入っていない方向性のものとか、できるだけ放射状に、いろんなものを入れたかったので、最後に創作っていう大きなテーマをその長編の中に入れ、全体のバランスを取る役割もあるんです。全部を読んだ上で、創作っていうものについてのお話を又吉さんに書いてもらった。
又吉 あの物語の中でも、また、架空の本のタイトルが出てきます。この本でやっていることをやっている、みたいな。
ヨシタケ 前回も今回も「メタ視線」というか、「本の中の、本の、本」みたいになっていくのは、又吉さんのアイデア。「入れ子」にしてもらうということで、余計、本の奥行きを出すことに貢献してくださった。一番難しいお題に、完璧に答えてくださったんです。
――ちょうど創作をされた時期、ヨシタケさんはご体調のすぐれない時期にあたったのでは。
ヨシタケ はい、そうですね。いや、でもね、そう言われてみれば全然、それのつらさはなかったですね。新鮮な、普段やっていることとは違う、「お題に答える」って形で、「どうやったらいいんだろうな」って。イラストレーターをやっていた頃の「お題をくれた人にブツブツ言いながらもニコニコやる」みたいな、そういう感覚でできたんです。そういう意味では、逆に救われましたね。やっていて楽しかった。又吉さんからすごい質と量のお題がポーンとくるんで。僕も「ちゃんとやらなきゃ!」って刺激されましたし、変にズルできないところは、いい意味で緊張感があって楽しかったです。
「どうなることやら感」ちゃんと維持できた
――3年ぶりのコラボレーションとなって、前回の時と変わったことは。
ヨシタケ いや、異なるところは特になくて、僕の中では改めて又吉さんのポテンシャルの高さに恐れおののきました。
又吉 いやいや(笑)。
ヨシタケ 「こわっ! この人」って(笑)。
又吉 そんなことないです。変わったといえば、社会の状況がちょっと。前回の時は(コロナ禍で)お会いできなかったんですね。リモートの会議が多かった。個人的に、空気感は当時より解放感があったかな、と思いますね。
ヨシタケ それはそうかもしれないですね。じかに会ってお話しできる機会は今回多かったので、お互いの話題を出し合うとか、そのへんの空気感は、わりと早い段階で共有できた気はします。
又吉 前作が、想像していたより多くの人に読んでもらって。創作のアプローチの仕方がこれだけ変わると、楽しさは一緒でも、つくり方が違う。それをやれたのがすごくうれしいですね。同じことをやるよりは、ちゃんと明確に「何が変わったか」がある。全部違うといえば全部違うというか。メンバーは一緒やけど、刺激的でしたね。
ヨシタケ 前回と同じワクワク感、「どうなることやら感」を、ちゃんと維持できるシステムをつくり上げたのは良かった。お互いそれぞれの自分の本ではできない何かが生まれていないと、一緒にやる意味がないので。
又吉 うん、うん。
ヨシタケ そこをどうその新鮮さを保ったまま、前回とは違うチャレンジができるかっていうのを、アイデアを出し合いながらできたっていうのが一番嬉しかったです。
本は想像力の「発射台」
本の復元依頼シート 整理番号1
その本は、タイトルが、
『ノストラダムスの小予言』
でした。これって、どんな本でした?ヨシタケシンスケさん×又吉直樹さん『本でした』(ポプラ社)より
――本をめぐる2人の物語は、今後も続いていくのですか。
ヨシタケ そういう質問になりますよね(笑)。「できたらいいですね」としか言いようがないんです(笑)。
――この先、どんどんお題の難易度が上がっていって。
ヨシタケ でも『その本は』『本でした』って、今回、タイトルをつなげて閉じちゃったので。
又吉 その間に入れていけるのか??(笑)
編集担当 『そして』があります。接続詞という日本語があります。第3弾も狙っています。
ヨシタケ この第2弾次第ですよね。お互い健康でいたい、そこに尽きますね(笑)。
――それにしても、本のもつ魅力に2人がじっくり向き合った、素敵な本ができましたね。
ヨシタケ 本って、SNSとは違って一方通行なもの。出したら、出しっぱなし。それがどう読まれるか、つくった側は選べないわけですよ。ただ、「だからこその良さ」はたぶんあるはずで、100年前の本を今、今年出た本と同じように読んでいい。いつ、誰に読まれるか、どう受け取るのか、こっちで選べない、その仕組み自体が、本の一番の良さだなと思っていて。そこに加われるってことが嬉しいですね。本の良さを一つひとつ凝縮していくことに自分が携われたらいいなと思います。そういう意味では、『その本は』に続いて今回、本についての本をつくれてうれしいですし、未来に残すことができるのも、本のすごくいいところ。「やりっぱなし感」が気持ち良いってところも含め、参加できたのは誇らしく、嬉しいです。
又吉 この『本でした』をつくっていた時に、お題がいっぱいあるんで、「読者の人も考えて、自分なりの物語を考えてくれたら面白いですね」ってヨシタケさんが言っていて、なんかそれが僕はすごく大事、というか。僕も子どもの頃、授業中とかに本を読んでいる時、もうなんか笑っちゃうんですよ。それは、書いていることが面白いんじゃなくて、次の瞬間、何が書いているか不確定っていうのが、すごく緊張感がずっと継続されて蓄積されていくから。次、アホな1行があったら、めちゃくちゃ面白いじゃないですか。それがずっと頭の中に溜まっていって、笑っちゃって、「お前、何、笑ってんの?」って怒られたりしていたんですけど。
なんかこの本は、その「発射台」として機能するんじゃないかと思って。すべての本が実はその発射台になっているんですけど、よりわかりやすく発射台になっている気がして。その想像力は、本を読むためだけにあるもんでもなく、日常とか、もっと大きな未来みたいなものでも使える力でもあるのかなと思うんで。本って実は、知識を蓄えるだけのものでは決してなく、新しいことを考えたりするためのものでもある、って思います。
――まさに、「本の好きな小川くん」の物語のシーンにもつながります。絵本を読み聞かせてくれたお父さんがパタンと本を閉じ、「ここからどうなると思う?」って聞かれる、あのシーン。
又吉 あれ、小川くんにとってはプレッシャーですけどね(笑)。
ヨシタケ あははは(笑)。