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「1945年に生まれて」池澤夏樹さん「平和は消耗品。作って作って広げなければ」 都内で対談

「戦争の記憶を消してはいけない」と語る作家の池澤夏樹さん

 作家・詩人の池澤夏樹さんが6日、東京・日比谷図書文化館で、岩波書店元社長の山口昭男さんと「戦争の記憶を消してはいけない」と題した対談をした。戦後と同じく80歳を迎えた池澤さんは先月、文芸評論家・尾崎真理子さんとの対話形式の自伝「一九四五年に生まれて」(岩波書店)を刊行。対談でも、自身の人生を振り返りながら、「平和」について語った。

 池澤さんは作家の福永武彦と詩人の原條あき子を両親に、北海道帯広市で生まれた。ほぼ1週間後に帯広空襲があり、乳児を含む6人が亡くなったとされる。「それはぼくであったかもしれない。わずかな可能性ながら戦中派です」と話し始めた。

 学齢期を前に都内へ移り、小学校時代は子供向け文学全集と自転車に夢中になった。「読書の喜びと移動の喜びは少年時代から」との言葉通り、ギリシャを皮切りに、沖縄、パリ郊外、札幌などに移り住みながら、世界各地を旅した。

 そんな〈移動の作家〉の目に現在の世界は第2次大戦をきれいに忘れているように映る。「理性的にものを考えて合理的に判断すれば、お互いが悪くならないようにできるはずだという、啓蒙(けいもう)思想以来の国の運営の仕方の前提が崩れ、力ずくばかりになっている」

 南西諸島の自衛隊配備を進めようとする政府に対しても「自衛といいながら挑発です。中国がひどいからといって、軍備を増やすだけでは、戦争に近づくだけ」と熱っぽく語った。

 この日、広島で平和記念式典が開かれた。池澤さんは「平和は消耗品」と言う。「ほっといたら減っちゃう。作って作って広げなければいけないのに、常に戦争にひっぱられて崩されかけている。抵抗しなければずるずると引っ張られる。いわば綱引き。いま負けています。それでも足を踏ん張って綱を引っ張り続けなければいけないんです」(野波健祐)=朝日新聞2025年8月20日掲載