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「森にこもり鳥を追う生活を18年」 小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞贈呈式

小林秀雄賞を受賞した評論家の川本三郎さん(右)と、新潮ドキュメント賞を受賞した動物言語学者の鈴木俊貴さん

 第24回小林秀雄賞と新潮ドキュメント賞(新潮文芸振興会主催)の贈呈式が10日、東京都内で開かれた。小林秀雄賞は評論家・川本三郎さんの「荷風の昭和」(新潮選書、前後篇〈へん〉)が、新潮ドキュメント賞は東京大准教授で動物言語学者の鈴木俊貴さんの「僕には鳥の言葉がわかる」(小学館)が受賞した。

 川本さんは、戦前戦中から戦後まで生き抜いた作家・永井荷風の全作品を読み込み、足かけ7年の連載、2冊で計1100ページを超える大著を書き上げた。荷風像について「東京という町を愛し、東京を舞台にした小説を書き続けた都市の作家。女性を愛したが決して好色ということではなく、昭和の猛々(たけだけ)しい軍国主義の時代に『武』に対して女性文化のたおやかさを愛した作家。この二つを明らかにしたいと思った」と語った。また、荷風の代表作「濹東綺譚(ぼくとうきだん)」を例に、日本の近代小説に青春小説が多い中で、作品の片隅に好ましい「世捨て人」的な老人を配するなど「老人文学の側面がある」と現代性を指摘した。

 身近な野鳥シジュウカラが鳴き声を単語として使い、それを組み合わせて文をつくりやりとりする様子を観察・実験で解明した鈴木さんは、「多いときで年に10カ月、軽井沢の人のいない森の中にこもり鳥を追う生活を18年続けてきた」。研究の意義を「人間は古代ギリシャ以来、先入観や決めつけによって見える世界を狭めてしまっていたのでは。動物学者でさえも(動物たちの)言語をろくに調べてこなかった」と語った。「まわりの自然には、分かっていることよりも分かっていないことのほうがたくさんある」と自然をじかに体験し、観察する必要を強調した。(大内悟史)=朝日新聞2025年10月15日掲載