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大島真寿美さん「うまれたての星」 少女漫画の黄金期、編集部という熱気の宇宙

大島真寿美さん=東京都千代田区、堀越理菜撮影

 少女たちの心にきらめきを与えてきた少女漫画誌「週刊マーガレット」と「別冊マーガレット」をモデルに、大島真寿美さんは「うまれたての星」(集英社)を書き上げた。1960年代末から70年代初頭の、編集部と少女たちの熱を閉じ込めた大河長編だ。物語は、かつて少女だった私たちの胸の中に残る光のかけらを思い起こさせる。

 大島さんは、小学生の時にはじめて「別冊マーガレット」を読み、少女漫画に夢中になった。年代の近い少女たちがスター漫画家になるのを目の当たりにした。「みんなものをつくって出していいとすり込まれた」。自分が小説を書くハードルも下がっていたと感じている。

 少女漫画の編集部が舞台の物語を読みたかった。なければ、自分で書けばいい。当時の編集者や漫画家らへの取材を2020年から進めた。「心の底から書きたかった。取材すればするほど、書きたい気持ちが高まっていった」

 ある取材を終えた時、「うまれたての星」というタイトルが浮かんだ。「頭が沸騰して、書ける、書ける!と思った」。〈空の彼方(かなた)にアポロがいる〉という書き出しの一文がおりてきて、物語の始まりは、アポロ11号が月面着陸した69年に決まった。

 物語は、この年に「週刊デイジー」「別冊デイジー」編集部の経理補助として働き始めた牧子や、新たな才能を次々見いだす編集長ら、編集部で働く人々に光を当て、「100万部」時代の軌跡を描く。女性の社会進出がまだまだだった時代に男性編集者と同じように漫画家を担当したいと奮闘する女性たちの姿や、社会の抑圧を振り切ろうとする少女たちのうねりも物語と響き合う。

 大島さんは、書き進めるうちに、少女漫画に魅了されていた理由に気が付いた。「編集部に本当に熱気があって、私もそういう熱を受けていたんじゃないか。エネルギーそのものをもらっていたような気がする」。誌面から受け取ったものは、ずっと心の中にある。

 少女漫画のヒロインの瞳の中には、きらきらした星が描かれている。〈それは少女たちが求める光であり、輝きでもある。(中略)輝く欠片(かけら)を私も持っている〉

 「編集部という宇宙を書こうと思っていたけれど、それは遠くに見えるものではなくて、私もあそこに立っていたんだという小説にしたかった。懐かしいだけの物語にはしたくなかった」

 終わりは決めずに書き始めた。「まだ終わらないって小説が言い張るから、しょうがないなって感じで」。生まれる一文一文に大島さんはついていった。

 92年にデビューしてから数年は、楽しさよりも、自分の中のものをたくさん出さなければいけない苦しさやつらさがあった。「だんだん年を取ってきて、そういうものに鈍感になったせいもあって、楽しさだけが強くなった。今回は特に楽しかった」。自分の読みたいものを自分で書ける。幸せな「自給自足」で生きている。(堀越理菜)=朝日新聞2025年10月29日掲載