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「白猫、黒猫、しましま猫」カマノレイコさんインタビュー、家族のような3匹との思い出“猫エッセイ漫画”に

カマノレイコさん=北原千恵美撮影

“猫好き”でなくとも楽しんでもらえるように

――『白猫、黒猫、しましま猫』のタイトルが表すように、カマノさんが3匹の猫と過ごした思い出や日常が描かれています。今回、絵ではなくマンガで表現したきっかけは? 

 白猫の“チャオ”、黒猫の“ぐうちゃん”、しましま猫の“ちふ”、この3匹は以前から私が描いてきた絵に幾度も登場している猫たちですが、それぞれ幼少期から現在まで私と暮らしていた実在のモデル猫がいたんですね。

 3年ほど前に私のSNSを見た編集者の方から「オールカラーの猫マンガを」とお声がけいただき、打ち合わせを重ねていくうちに、私の絵の中でデフォルメした3匹ではなく、実際の3匹とのエピソードをマンガにしてみよう、と。

――カマノさんの描く猫たちは、ふくふくとかわいいだけでなく、どこかとぼけた愉快な味わいがあります。昔から猫好きだったそうですが、「猫を描く」ことも好きでしたか?

 猫だけが特別に好きで描いているわけではないですが、昔からおかしみのある絵が好きで、そういう絵にはなぜか猫がよくモチーフとされているんですね。歌川国芳や藤田嗣治などの画家が描く猫の絵なんかも好きです。

 それから、自分は動物たちがみんな集まって何かを食べている光景を描くのが好き。猫や犬、アナグマ、キツネ……なぜだか毛がある生き物が多いですね。そういえば、戸棚に飾ってあるのも、海外の旅先で買ったなんだかわからない毛まみれのぬいぐるみです(笑)。

 だから、猫の「あるある」や「かわいさ」を描きたいというよりも、猫をよく知らない人にもおかしみを感じてもらえるような、人間とちょっと距離がある生き物としての猫の面白さを描いてみたいと思いました。

歌川国芳が描いた猫

――画家として数多くの絵を描かれていますが、一枚で見せる絵と、流れで読ませる漫画では、表現として違いがありましたか。

 私は昭和の漫画を読んで育った世代なので、藤子・F・不二雄や手塚治虫の漫画の流れがやっぱりどこか体に染みついているんです。漫画でコマの流れやテンポを作るときにも、その感覚が活きた気がします。映画も好きなので「ここは引きの画にしたいな」という感覚は過去に観た映画を思い出しながら描きました。

 一方で、プロの漫画家さんの巧みな起承転結やストーリーの技術には及びませんが、それならば絵描きとして1コマ1コマが「絵」であるように、という点は意識しました。1コマずつが「絵」として見て楽しめるようにしたくて、オールカラーで結構時間をかけて描き込んでいます。  

3匹の猫、それぞれとの時間

――登場する3匹は、全然タイプが違う個性豊かな猫たちです。

 チャオは私が小学生のときに我が家にやってきた白猫で、そこから18年間一緒に暮らしました。母の知人から貰い受けたのですが、初日から全く物怖じせず、すぐに環境に馴染んでいたので、「かわいいけど、なんだかあつかましいな」と不思議な気持ちになったことを覚えています。「よその子がうちに泊まりに来て寝てる」感じというか。

 昭和の猫だったので外遊びも盛んでした。チャオの友達の猫がうちにも入ってくるようになり、気づけば私の布団の上に2匹が眠っていたこともありましたね。

 最初は私にとって妹のような存在だったチャオですが、いつの間にかお姉さんになり、途中からマダム感がでてきて家族から「チャオさん」と呼ばれるようになり、最後はおばあちゃんのように感じていました。賢くてしっかりとした存在感のある猫でしたね。

――2匹目の黒猫ぐうちゃんは、また違う魅力があります。

 ぐうはチャオが亡くなって3年ほど経った頃に、「また猫と暮らしたい」という母が里親募集で出会った猫でした。とにかく体が弱くてあまり長生きできないだろうと言われていたのですが、控えめなようでいて芯は強い、不思議な魅力がある猫でしたね。

 何か主張があれば無言でじ~っとこちらを見てくるので、つい人間のほうが動かされてしまう。ぐうちゃんが来た頃には私は結婚して実家を出ていたのですが、近所に住んでいたのでしょっちゅう会いに行っていました。うちの夫は3匹の中では完全にぐうちゃん推しです。

 ただ、黒猫のかわいさを絵で表現するのはなかなか難しいですね。ちょっ
とだけグレーで陰影をつけたり、表情の面白さが伝わるようにと工夫をしたりしています。

――3匹目のしましま猫ちふは、カマノさんが里親募集で引き取った猫だそうですね。

 実家のぐうちゃんを見ているうちに、私も「また猫と暮らしたいな」という気持ちが湧いてきて、長女が3歳になった頃に引き取ったのが今も一緒に暮らす、ちふです。

 生後3カ月のちふと暮らし始めて驚いたことは、「大人になってから飼う猫はこんなにかわいいんだ!」という発見があったこと。自分が親になったからなのか、チャオの初日のように張り合う気持ちもなく、最初から「ただただ100%かわいい」という感じですね。

 とにかく穏やかな性格で、幼い長女を怖がることもなく、その2年後に生まれた次女の午睡も静かに見守ってくれた頼もしい猫です。

 絵で描くのが一番難しいのはちふですね。模様が複雑だし、毛並みはモフッとしているけど、ちびっこ感もある。そのバランスが崩れないよう意識しています。

猫は「かわいい」だけで完結しない

――年齢や人生のフェーズによって、猫との向き合い方も変化していったのですね。カマノさんの初コミック『ひなたの3匹』に登場する3きょうだいのキャラクターは、本作で描かれている実際の3匹とは重なるようで微妙に違います。

『ひなたの3匹』はチャオが一番上、ぐうちゃんが2番目、ちふが末っ子のきょうだいという設定ですが、実際の3匹の個性をちょっと盛り込みつつ、いいところや面白い部分を膨らませてキャラクターにしています。

――実際には一緒に過ごすことがなかった3匹が、この本の中では並んで語られ、カマノさんの描く絵の世界では仲良く暮らしている。それができるのも創作の醍醐味ですね。表紙の絵からもじんわりした幸福感が伝わってきます。

 そうなんです。表紙の絵はまさに「一緒にいる3匹を描けて嬉しい!」という気持ちでしたね。3匹がいるのはチャオが生きていた頃の実家の庭で、母が当時育てていたバラのアーチがあって、そこにぐうちゃんとちふも一緒に描くことができたので本当に楽しかったですね。3匹が群れているのではなく、バラバラに過ごしているそれぞれのよさが絵の中でちゃんと出せたらいいな、と思いながら描きました。

『白猫、黒猫、しましま猫』(幻冬舎)

 私の絵を見ると、母はよく言うんですよ。「チャオはすごいねえ。死んでからもあなたに自分を描かせるんだから」って。でも本当にその通りなんですよね。チャオを使って絵を描こうと思ったわけではなく、勝手にこちらが描かされているような感じすらあるほどです。

 でもこの本を描き上げてあらためて思ったのですが、やっぱり猫って描いていて面白いんですよね。江戸時代の猫の絵を見ても、「すごく細かいところまで観察して描いてるなぁ。どれほど好きだったんだろう?」と思ってしまうほどに。

 私は犬も好きだし描きますが、犬ってすごくかわいいじゃないですか。表情とかも猫よりずっとニコニコしている感じがあるし、「かわいい」でもう完結している。実際の犬がかわいいのだから、あえてよりかわいくする必要もないし、かわいくなく描くこともしづらい。

 猫はそこが違っていて、かわいくも、悪っぽくも、面白くもできますよね。そこに遊びの余地がある。だから、いつの時代も絵描きは猫に魅了されてしまうのかもしれません。

描くことは呼吸することと同じ

――2023年以降、画集、漫画、コミックエッセイ、スケッチ集とコンスタントに作品を発表されています。過去には雑貨店経営やアクセサリーの制作活動をされていたそうですが、いつ頃から絵を描くことを仕事にしようと舵を切ったのでしょう?

 長女が2歳の頃に、「飽きずに続けられる仕事がしたい、好きなことで!」という欲が猛烈に湧いてきたんです。でも会社勤めが向いていないことはわかっていたので、自分の持っているもので何か仕事にできないかと模索したら、「やっぱり絵じゃない?」と周囲から言われて「じゃあ本気でやってみよう」と描き始めたのが始まりでした。今から10年くらい前ですね。

――そこからどのように「カマノレイコ」として世に出て行ったのでしょう?

 最初はイラスト専門雑誌に作品を送って、何か賞を獲らないとだめかなと思って応募していたんですね。でも「このやり方はつまらない」と途中で気づき、じゃあ違うことをやろうと思って考えたのが、自分の絵をポストカードにして販売することでした。

 100枚印刷してもお金はさほどかからないので、大量に印刷したポストカードを「minne」(ハンドメイドマーケット)に出品したり、地元の雑貨店に置いてもらったり、イベントに出展したりと、とにかくどんどん出して行ったんですね。そのうちに、せっかくだからSNSでも載せてみようと投稿も始めて、外に向けて見てもらう機会を作っていきました。

 雑貨店をやっていたので、そういう作業に慣れていたこともよかったのだと思います。それに、ポストカードって買った人が誰かに送ってくれますよね。そのおかげで絵を見てくれる人が少しずつ増えていき、販売を始めて2、3年過ぎたあたりから、ちょこちょこと「ポストカードを見て」と仕事の依頼をもらえるようになり、今に至る……という感じです。

――過去にSNSで「絵を描きだすと、水面に顔を出してプハーと息継ぎをしているような気持ちになります」と投稿されていましたが、今のカマノさんにとっては絵を描くことは呼吸に近い感覚なのでしょうか。

 呼吸することと同じで、描いていないと酸欠になるような感覚が自分の中にはありますね。私の場合は、楽しいとか癒されるとかいうよりも、自分が生きるために描いている気がします。

 私、昔から好きなものの似顔絵を描くと、その存在がそこにいるような気になれるんです。だから、チャオが死んで悲しかったときも、よくチャオの落書きを描いて夫に見せたりしていました。すごく雑な絵でしたが、それで自分の心を慰めていたんでしょうね。

 夫がその絵を気に入ってブログで公開してくれていた時期もありましたし、身近な人たちもそういう私の姿を見ていたからこそ、「やっぱり絵じゃない?」と言ってくれたのだと思います。だから多分、これからも描くことがずっと好きなんでしょうね。