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「成瀬は都を駆け抜ける」書評 彼女が引き出す、前へと進む心

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月24日
成瀬は都を駆け抜ける 著者:宮島未奈 出版社:新潮社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784103549536
発売⽇: 2025/12/01
サイズ: 19.1×13cm/240p

「成瀬は都を駆け抜ける」 [著]宮島未奈

 シリーズ累計210万部! 出版不況と言われるこのご時世に、この部数。成瀬あかりシリーズは、もはや国民的シリーズと言っても過言ではないかもしれない。本書はその完結編だ。
 デビュー作『成瀬は天下を取りにいく』では中2だった成瀬が京大生に。あぁ、こんなに大きくなって、とこちらの気分はもう、親戚のオバチャンである。
 祖母譲りの振袖(ふりそで)を着た成瀬が、京大の入学式に参列する「やすらぎハムエッグ」に始まり、これまでシリーズに登場した面々がずらりと揃(そろ)う「琵琶湖の水は絶えずして」で終わる本書。収録されている6編にはどれも成瀬パワーが炸裂(さくれつ)してる。
 このシリーズの特徴は、物語が成瀬視点ではなく、成瀬とかかわる人々の視点で描かれることにある。成瀬というキャラクターを、外側から照射することで、最強で最高な彼女が、読み手の胸に刺さるのだ。
 本書では、成瀬と同じ理学部一回生である坪井さくら、森見登美彦ファンという共通項から「達磨(だるま)研究会」というサークル(会員数3人)に加わることとなった農学部一回生の梅谷誠。簿記YouTuber(なんじゃそりゃ!)である大学生、田中ののか、成瀬の母親である美貴子、シリーズ第一作に登場した西浦航一郎。そして、成瀬の親友であり、シリーズを通してキーパーソンとなる島崎みゆき。成瀬とかかわることで、視点人物となる彼らの心が前へと進んでいくのがいい。
 自分が興味を持ったことどもを〝極める〟のを旨としている成瀬が言う。「みんなは『極める』という到達点に注目するのだが、わたしはそこに至る道が重要だと思っている。ゴールにたどり着かなくても、歩いた経験は無駄じゃない」
 ね、なんかもう、成瀬を愛さずにはいられなくないですか。成瀬あかり、尊すぎる。
 いつの日か、社会人となった成瀬に再会したい、と強く、強く思う。
    ◇
みやじま・みな 1983年生まれ。作家。デビュー作『成瀬は天下を取りにいく』で坪田譲治文学賞、本屋大賞など受賞。