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「こどもの本総選挙」第1位は「大ピンチずかん3」 作者・鈴木のりたけさんインタビュー 「困難や失敗の中にも面白いことが隠れている」

鈴木のりたけさん=北原千恵美撮影

自分らしさ全開で、面白がって作った絵本

――“こどもの本”総選挙では、前回『大ピンチずかん』が初登場3位、今回は『大ピンチずかん3』で1位に輝きました。おめでとうございます。

 絵本作家になって18年、いろんな絵本を作ってきましたけど、「大ピンチずかん」はこれまでで一番気負わず、リラックスして作った絵本なんですよね。どういう本が子どもたちにウケるかとか考えずに、編集の村松さんと「これ笑える!」なんて言いながら面白がって作ったら、読者の皆さんも面白がってくれました。

 高校時代、一緒にバンドを組んでいた友達からは「『大ピンチずかん』からは、のりたけ汁がたくさん出てるね」と言われたんです。要は、鈴木のりたけらしさがよく出ているってことですね。確かに、他の人にはない自分の良さや強みみたいなものが、そのまますとーんと出た本だなと思って。こんな自分らしさ全開で作った絵本が、子どもたちによる投票で選んでもらえたっていうのが、またうれしいですね。

 大人になると、面白さを見つめる視線がこなれてくるというか、いろんなバイアスがかかってしまうと思うんですが、僕の芯の部分には今も、ピュアな好奇心と何でも面白がる気持ちがナチュラルに残ってるんだな、ということを再発見できたような気もしています。

――「大ピンチずかん」のネタ元はスマホのメモだったそうですね。

 当時、長男が小3、次男が小1で、ネタの供給量が一番高い時期だったんですよね。子どもといると毎日のように面白いことがあって、ちょっとした仕草やドジな瞬間、言い間違えなどをたくさんスマホにメモっていました。

 1作目の表紙にもなっている「牛乳がこぼれた」は、次男が小2の頃の大ピンチです。牛乳をこぼしたあとどう対処するのかを観察していたら、ティッシュを取りに行って、はらっと牛乳の上にかぶせたんですね。もちろんティッシュはべちょべちょ。それをゴミ箱に持って行こうとして、ティッシュからぽたぽたと牛乳が垂れ、床にも大ピンチが広がっていく(笑)。ああ、牛乳パックって子どもにとっては結構大きくて扱いにくいんだなぁ、なんて思いながら眺めていたら、なんだか愛おしく思えてきたんです。

 こういう面白い瞬間や愛おしい場面をばーっと並べて、あまり説教くさくなく、ただ面白がる本ができたらいいな、と思ったところから「大ピンチずかん」がスタートしました。

大ピンチをネタに盛り上がろう!

―― 図鑑みたいな絵本というのも、人気の理由のひとつかもしれませんね。

 最初はもっとストーリー仕立てのものを考えていたんですが、内容よりも先に浮かんでいた「大ピンチずかん」というタイトルの面白さや、担当の村松さんが以前、図鑑の編集をしていたことなどもあって、図鑑形式で大ピンチをたくさん紹介する方向で軌道修正しました。

 書店員さんからよく聞くのは、今まで書店に来なかったような子が店頭まで来て「大ピンチずかん」を買っていくシーンをよく見る、ということ。本を1ページ目から順に文字を追って読み進めていくという行動に慣れていないと、なかなか本に手が伸びないと思うんですが、この本はそういう子どもたちも読んでくれているようです。

 図鑑形式のよさは、どのページから読んでもいいところですよね。前から順番に最後まで読んでもいいし、ぱらぱらっとめくって気になるページだけ読んでもいい。そんな特徴が読書のハードルを下げてくれているのかなと感じています。

―― 大ピンチって、どうしてこんなに笑えるんでしょうか。

 10数年前、ヨシタケシンスケさんやtupera tuperaの亀山達矢さん、編集者さんたちと深夜まで飲んだことがあったんですけど、そのときに一番盛り上がったのが、痛い体験談だったんです。僕はアニサキスで激痛に苦しんで胃カメラを飲んだときの話をしたんですけど、「いや、それなら俺の方が痛かった」みたいな感じで、痛々しい体験談がどんどん続いて、それがむちゃくちゃ面白かったんですよね。

 友達と集まったときって、何か面白い話をして場を盛り上げたいじゃないですか。自分の体験を話のネタとして提供したいけれど、自慢話はかっこ悪い。そんなとき、痛い体験談っていうのは結構万能なんですよね。自慢っぽくならないし、思った以上にウケるので。これだけみんなを笑わせられたなら、苦しんだ甲斐もあったなって思うくらい(笑)。

 大ピンチもその感覚に近いですよね。恥ずかしい体験もドジな失敗も、みんなで笑い合う恰好のネタになるし、「わかる~!」「俺も以前こんなピンチが……」と話がつながって、自然と盛り上がる。だから「大ピンチずかん」を読んだあとは、本から離れたところでも大ピンチを話のタネにしてくれたらいいなと思うんです。本に描かれた大ピンチをただ読んで満足するのではなく、大ピンチを面白がるという価値観を自分の中にインストールして、自ら楽しんでいってほしい。そのきっかけとして、「大ピンチずかん」を大いに活用してもらいたいですね。

子どもの大ピンチ、先回りせず見守って

―― 子どもが大ピンチに陥りやすいのは、経験値の少なさゆえですよね。

 子どもは大人と比べて人生経験が少ない分、どうしたってピンチも多くなりますよね。こんなことでも大ピンチになるのかという驚きもあったり、自力で乗り越えてほしいなという親心もあったりと、いろんな思いを抱えながら「大ピンチずかん」を作ってきました。

 子育てをしていると、親は子どもがピンチに陥らないようにと先回りしてしまいがちですが、ピンチを経験したからこそ「前にこんなことがあったから、今回はこうしよう」と自分で考えられるようになると思うんです。ピンチを経験すればするほど、たくましい子になるというか。そういう経験を先に奪わないようにしたいなとは思いますね。

 ただ、ピンチに直面した子どもって、どうにかして隠そうとしたり、どうして俺だけが……と気持ちが下がったりしてしまうと思うので、そういうときに「うわー! 牛乳めっちゃこぼれてる~!」という感じで、笑いで盛り上げてフォローする、みたいなことは意識してやっていました。叱るのではなく笑ってあげることで、自分の状況を客観視できたり、落ち着いて対処できたりすることもありますから。ピンチも笑い飛ばそうぜ!っていうね。

―― ピンチも笑い飛ばそう!という考え方は、のりたけさんのモットー「面白がると世界は広がる」にも通じますね。

 今はテレビをつければお笑い芸人さんたちが笑わせてくれるし、いつでも好きな時間に作り込まれたドラマが見られる時代じゃないですか。そういう既成のコンテンツに慣れてしまっていると、「面白いってそういうことでしょ」と考えるようになると思うんです。もちろん、そうやって世間に公開されているコンテンツも面白いんだけど、人生の面白さってそれだけではないじゃないですか。

「箸が転んでもおかしい年頃」なんて言い回しがありますが、仲のいい友達同士でいると、何かがその辺に転がってるだけで腹抱えて笑うみたいな経験がみんなあると思うんですよ。そういう笑いってコンテンツの問題ではなくて、そこにある人間関係や流れている時間、雰囲気が作り上げるものなので、自分次第で変えられるはずなんですよね。だから、もっと自ら面白がっていこうよ、と。

 世の中には面倒くさいこともたくさんあるし、困難や失敗だって、いくら避けようとしてもついて回ってくるものだけど、そういうことの中にも何かしら面白いことが隠れているかもしれない。面倒も困難も失敗も全部ひっくるめて人生を前に進めていくには、考え方を変えた方がいいと思うんです。何でも面白がっちゃえ!ってね。そうすると世界は広がっていくんじゃないかなと思っています。

まだまだ「大ピンチ」は続く

―― 昨年は『大ピンチずかん3』の出版、参加型展覧会「大ピンチ展!」の開催、「大ピンチずかんカルタ!」の発売など、「大ピンチずかん」をもとに新たなコンテンツが生まれました。今後もまだ「大ピンチずかん」は続く予定ですか。

 実はすでに『大ピンチずかん4』の企画がスタートしています。紹介する大ピンチは王道のネタから少しずつニッチなネタに変わってきていますが、大ピンチに陥るまでの流れやシチュエーション、人間関係なんかも交えて描けば、面白いものになりそうだなと思っています。『大ピンチずかん3』で紹介した「近所のおばさんがずっと名前を間違えている」みたいなのって、そのシチュエーションも含めて面白いじゃないですか。大ピンチに陥った理由が面白ければ、きっとみんな面白がってくれるんじゃないかな。

 僕は絵本作家になりたての頃、絵本で何をしたいかと聞かれて、「今日はサッカーする? ゲームする? それとも絵本にする?」なんて感じで、サッカーやゲームと肩を並べるくらいのコンテンツを作りたいと言っていたんですね。今、それに近いところまでリーチできてるのかも、と手応えを感じているので、この勢いで今後も面白がって作っていけたらと思います。

第5回「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」ベスト10

  • 1位 「大ピンチずかん3」(作:鈴木のりたけ 小学館 2025年)
  • 2位 「りんごかもしれない」(作:ヨシタケシンスケ ブロンズ新社 2013年)
  • 3位 「パンどろぼう」(作:柴田ケイコ KADOKAWA 2020年)
  • 4位 「あるかしら書店」 (作:ヨシタケシンスケ ポプラ社 2017年)
  • 5位 「ドラゴン最強王図鑑」(監修:健部伸明 イラスト:なんばきび、七海ルシア Gakken 2022年)
  • 6位 「おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典」(監修:今泉忠明 絵:下間文恵、徳永明子、かわむらふゆみ 高橋書店 2016年)
  • 7位 「四つ子ぐらし①ひみつの姉妹生活、スタート!」 (作:ひのひまり 絵:佐倉おりこ KADOKAWA 2018年)
  • 8位 「つかめ!理科ダマン 1 「科学のキホン」が身につく編」(作:シン・テフン マンガ:ナ・スンフン 訳:呉 華順 マガジンハウス 2021年)
  • 9位 「ほねほねザウルスーティラノ・ベビーのぼうけん」(作・絵:ぐるーぷ・アンモナイツ 岩崎書店 2008年)
  • 10位 「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」(作:廣嶋玲子 絵:jyajya 偕成社 2013年)

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