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「猫の狂気」書評 症例から示す「真の向き合い方」

評者: 田島木綿子 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月31日
猫の狂気 ふしぎで豊かな「猫のこころ」をめぐる探検 著者:クロード・ベアタ 出版社:山と渓谷社 ジャンル:科学

ISBN: 9784635230155
発売⽇: 2025/11/04
サイズ: 18.8×2.6cm/408p

「猫の狂気」 [著]クロード・ベアタ

 野生のネコは長い歴史を経てネズミ捕りなどの使役や愛玩目的のイエネコとなったが、彼らは恐るべきハンターであり、一瞬で危機からの回避計画を立てられる「捕食者でも被食者でもある」二面性を持つらしい。
 ネコはイヌと違ってあえて群れない習性を持つ。飼うことは「野生動物を受け入れることと同じ」と著者はいう。生活環境作りに必要な孤立、食事、排泄(はいせつ)、活動、交流という「五つの場」や、ネコにとって健全な環境の「五つの柱」など、項目を挙げた箇条書き解説は分かりやすい。外飼いと室内飼いで行動障害の有病率を比較した研究成果は興味深い。長年獣医精神医学の発展に貢献してきた著者の専門的知見は、同業の私には新鮮である。
 ほとんどの哺乳類はフェロモンで他との関係を整理し、自らの行動や機能を調整する。ネコのフェロモンは五つの成分が知られ、中でもF3は自身を環境や物に慣れさせる役割がある。椅子やテーブルの脚に顔をこすりつけるしぐさはF3のマーキングで、「私は安全な場所にいる」という印になる。
 飼い主が極端な綺麗(きれい)好きやこの習性を知らないためそれを毎回拭き取ると、ネコの精神状態は不安定となり、より強力な尿マーキングを開始し、双方にとって良い将来が保てなくなる。このエピソードは、3匹のネコと暮らす私を含め、世の飼い主たちに有意義な知見であろう。
 さらに、体罰は与えないこと、ネコが愛着を抱くのは「触れられるのが好き」と同意義ではないことなど、本当の意味でネコの気持ちに向き合う必要性に、症例を挙げつつ楔(くさび)を打ち込む。
 それにしても「猫は現代社会が取り入れつつある女性的な価値観を体現する存在である」という見解は、男性著者ならではだろうか。その価値観は「生活の質と、個人の領域や人間関係に対する配慮を中心とする」ネコに近い考えというが、是非は読み手に委ねよう。
    ◇
Claude Béata 動物行動医学を専門とするフランスの獣医師。猫を中心に動物の苦痛を軽減する診療に取り組む。