1. HOME
  2. コラム
  3. 台湾発の「SATOYAMAイニシアティブ絵本」が話題 大人にこそ読んでほしい「里山」の未来を考えるアート絵本

台湾発の「SATOYAMAイニシアティブ絵本」が話題 大人にこそ読んでほしい「里山」の未来を考えるアート絵本

『小さな台湾白魚は大波を生む』(トゥーヴァージンズ)より

里山再生の「実話」から生まれた絵本

 台湾の里山でも、日本と同様に人が少しずつ手を入れながら森林や河川と共存し、動植物とも適度な距離を保って共生してきた。しかし、現代では農村の衰退や生態系の維持など、さまざまな問題が起きている。こうした里山の課題に向き合う中、台湾で生まれたのが「SATOYAMAイニシアティブ絵本」である。

「SATOYAMAイニシアティブ」とは、自然環境を守りながら、里山を持続可能な形で利用し続けるための国際的な取り組みだ。2010年、名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)をきっかけに日本が世界に向けて提唱した。人の暮らしと自然を対立させるのではなく、共に続いていく関係を模索し、国や自治体、研究者、NGO、企業などが連携しながら、地域ごとの実践を積み重ねている。台湾では、行政が積極的に「SATOYAMAイニシアティブ」を推進しており、絵本も実際に台湾で取り組んできた里山再生を丁寧に取材して作り上げた。 

『カタグロトビの歌』(トゥーヴァージンズ)より

「SATOYAMAイニシアティブ絵本」は、2022年に第1弾が発売され、日本語版は蔦屋書店や独立系書店に並び、大きな注目を集めた。2010年に日本が世界に向けて提唱した国際的な取り組みが、年月を経て、台湾から日本へ、実践やアイデアを逆輸入した形となる。

 2026年1月には、第2弾が繁体字版・英語版・日本語版の3つの形態で同時刊行された。農村集落のモデルチェンジに成功した、台湾各地の4つの事例が絵本化されている。

  • 『小さな台湾白魚は大波を生む』
    絶滅危惧種の台湾白魚を守るため、産業の転換と教育体験の場づくりに取り組んだ物語。
  • 『百分橋を越えて』
    歴史ある水路の改修をきっかけに、若者と年長者が協力し、世代を超えた生態系づくりに向き合った農村の話。
  • 『白い石は陸へ上がり 黒い石は海へ潜る』
    サンゴ石と玄武岩を軸に、島の自然資源を生かしながら未来を考えていく物語。海と陸の持続可能な未来を考えるきっかけに。
  • 『カタグロトビの歌』
    農民と行政が協力し、農薬を使うことなく、鳥の力を生かして環境配慮型の農業に挑戦していった軌跡。

左上から時計回りに、『カタグロトビの歌』『百分橋を越えて』『小さな台湾白魚は大波を生む』『白い石は陸に上がり、黒い石は海へ潜る』の原書

圧倒されるほど美しい、アートとしての絵本

 絵本を開いてまず目を引くのは、その美しさ。アースカラーを基調とした色づかい、大胆な構図、ページ中央から飛び出す立体的なしかけ。動植物の生命感が画面いっぱいに広がり、表紙には布を用いるなど、細部まで強いこだわりが感じられる。「読む」だけでなく、「眺める」ことで伝わってくる、まさにアートブックのような絵本である。

どの本にもしかけのページがあり、インパクトがある

 絵本制作を手がけたのは、数々のデザイン賞を受賞し、里山展示のキュレーションも行うデザイン集団「種(しゅし)設計(SEED DESIGN)」。

「これまでは農村の過疎化や田畑の荒廃があっても、問題解決できないコミュニティがたくさんありました。立場の違う人がそれぞれ主張すれば、価値観の違いがどうしても出てきます。そうして方向性を失っていたところに、『里山』という概念のもと、人と自然環境の共存というテーマができて、ようやく日常の暮らしを見直す視点が生まれたんです。そこからコミュニティの問題も解決していきました」と語るのは、種設計の陳 献棋(チン・シエンチー)さん。

種籽(しゅし)設計(SEED DESIGN)の陳 献棋(チン・シエンチー)さん

さまざまな場で問いを深めるきっかけに

 日本語版の「SATOYAMAイニシアティブ絵本」は漢字表記が多く、大人向けのつくりになっている。しかし、里山について考える場や、環境問題・農村問題を子どもたちと話し合う際の導入としても、非常にインパクトのある一冊だ。ページをめくり、美しいイラストを追うだけでも、感じ取れるものは多い。絵本を開いたときに「記憶の中にある里山の原風景だ」と懐かしむ人もいるという。

 長い年月をかけて複雑に絡み合ってきた里山の課題は、台湾でも日本でも共通している。里山の在り方に「正解」はない。だからこそ、実際の課題解決の物語を絵本という形で受け取り、考えるきっかけにしてみてはいかがだろうか。