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「自治体は何のためにあるのか」書評 「稼げるまちづくり」に切り込む

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2026年02月28日
自治体は何のためにあるのか──〈地域活性化〉を問い直す (岩波新書 新赤版 2092) 著者:今井 照 出版社:岩波書店 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784004320920
発売⽇: 2025/12/23
サイズ: 1×17.3cm/240p

「自治体は何のためにあるのか」 [著]今井照

 地方自治は民主主義の学校と言われる。しかし往々にして私たちの関心は、自治体をすっ飛ばして国政に向かう。地元国会議員の顔と名前は知っていても、県議会や市議会の議員となるとあやしくなる、という人も多いのではないか。
 地方自治の専門家の手による本書は、ふだん自治体や自治のことを考えないような読者に向けたものだ。といっても退屈な解説本ではない。著者は現状に対して怒っている。しかも激しく。
 まず矛先が向かうのが、福島県国見町で起きた「企業版ふるさと納税」の悪用だ。ある企業グループが町に寄付した4億円を、業務受注でしっかり回収していた。税制優遇の恩恵も受けながら。事件そのものもショッキングだが、著者が問題にするのは構造的背景だ。地方創生の名の下、国は「稼げるまちづくり」の旗を振った。アベノミクスの成長戦略に地方が動員されたのだ。
 2000年の分権改革で、国と自治体は「対等」の関係になった。しかしその後の実態は、むしろ中央集権に回帰しているのではないかと著者は見る。通達一本で地方を従わせることはできなくなったが、代わりに国は次から次へと計画策定を自治体に求めるようになった。事務量の増えた自治体は、東京のコンサルタント会社に計画作りを依頼する。地域の事情は二の次になる。何なんだ、これは。
 自治体は何のためにあるのか。著者の答えは明快だ。「今日と同じように明日も暮らし続けられることを市民に保障する」ため。誰もがこぼれ落ちないようにするのが仕事で、企業の経済活動とは違う。
 市民から行政を遠ざけた「平成の大合併」を批判し、デジタル化も業務量を増やしているだけだと訴えるなど、現状に切り込むさまは小気味よい。それだけに現場の実務者たちには異論もあるかもしれない。自治体の存在意義をめぐる大きな論争をぜひ期待したい。
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いまい・あきら 1953年生まれ。地方自治総合研究所特任研究員。著書に『未来の自治体論』『地方自治講義』など。