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「杏のとことこパリ子連れ旅」「杏のパリ細うで繁盛記」 2冊のエッセイで初めてつづったフランスのこと

杏さん=本人提供

子どもと一緒に暮らしたい街

――杏さんは2022年8月にフランス移住を発表し、9月にはパリへ移住。東京と2拠点生活を送りながら俳優活動をしていますが、あらためてフランスに惹かれた理由から教えてください。

 フランスは、10代の頃からパリコレなどでも度々訪れることがあり、昔からの知人や友人もいて馴染みがありました。パリは車も少なく移動がしやすく、すごくコンパクトな街なので、地理もなんとなく把握ができていたんです。さらに、ご飯がおいしいことが決め手になりました。食事に関しては、以前、ドキュメンタリー映画「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」で、いろいろな国の教育機関を紹介していたなかで出てきたフランスの給食の様子や北欧の教育制度がとても印象深くて。

 フランスは給食でほぼ地産地消が推奨されていて、前菜にあたる「Entrée(アントレ)」、メインの「Plat(プラ)」、デザートの「Dessert(デセール)」が出るんです。デザートといっても、ヨーグルトやフルーツぐらいのものですが、豪華ではないけれども子どもの体を考えて作っているもの。パンもすごくおいしいですし、子どもと一緒に暮らしたい街だと感じました。

『杏のとことこパリ子連れ旅』より

――今回、フランスにまつわる2冊のエッセイを発売しますね。書き下ろしの『杏のとことこパリ子連れ旅』と、月刊誌「波」に連載していたコラムを書籍化した『杏のパリ細うで繁盛記』は、どちらもオファーを受けてからお話が進んだものですか。

『杏のとことこパリ子連れ旅』は、「いつか本にしたいな」と思っていた、3人の子どもたちを連れてパリに行った時の旅の日記を加筆修正して、ガイドブックの要素もつけたりして、完成しました。

『杏のパリ細うで繁盛記』には、「ヤマト記」という章があるのですが、「波」に「ヤマト記」を載せていただいたことがこの本ができるきっかけになりました。というのは、ずっと連れ添った柴犬のヤマトが亡くなった時に、私がどうしても気持ちをアウトプットしたくて書いた文章があって。「ヤマト記」と題して小さな冊子にして、生前にヤマトがお世話になった人にクッキーと一緒にお渡ししました。

 それを読んでくださった出版社の方が「波」に載せたいと言ってくださって、そこからさらにエッセイのお話もいただいて、この本になりました。ですので、2冊とも、それぞれの思い出をもとに形づくっていったものになります。

『杏のパリ細うで繁盛記』より

親子でも新しい発見が多くなる醍醐味

――フランス旅行編の『杏のとことこパリ子連れ旅』は、ありのままの情報が役立ちそうです。とくに旅行で印象深かったエピソードはありますか?

 ベビーカーを盗まれたことですね(苦笑)! フランスでは6歳ぐらいまではベビーカーに乗っている光景をよく見かけるんですが、我が家はベビーカーを盗まれたおかげで、3歳ぐらいで早めの卒業をすることに。まだ目が離せない時期は、紐に買ってきた電車のつり革を結んで、ひとりで子ども3人と犬2匹を連れてお散歩に行くようなこともありました。

――工夫してお散歩されていてすごいです! 同書の「パリ案内」のページでは、エッセイの本文に出てくる名所や食べ物の写真、地図やフランス語の旅のフレーズなども掲載されています。子連れ旅で一番使うフレーズは何でしょうか?

 本の中にあるフレーズだと、「子どものためのお皿をいただけますか?」という意味の「Pourriez-vous me donner une assiette pour enfant, s’il vous plaît ?」でしょうか。大人だけで食事をする際に取り分けることはあまりないのですが、子連れ旅だと取り分け用のお皿をいただく機会があると思うので、知っていると便利です。

『杏のとことこパリ子連れ旅』より

――パリでの子連れ旅の醍醐味といえば? 

 大人も子どもも、新しい場所に行くだけでとても刺激になりますよね。エッセイでも触れていますが、日常生活を送っている時に子どもが何時に起きて何を食べて……とルーティンの中でわかっていたつもりだったことが、全然違う環境に行くだけで意外と「これも食べられたんだ」「こんなに寝なくても意外と平気だったんだ」と気づくことがあって。

 例えば、美術館に行って絵を見る刺激などももちろんあると思うのですが、親と子どもの関係性の中でも、新しい発見が多くなることが醍醐味です。私の場合、パリの子連れ旅は子どもの月齢ごとにできることが増えていく段階の3年間での旅だったので、旅を重ねるごとに変化と成長を感じました。

私は運や縁に助けられている

――移住してからの生活編『杏のパリ細うで繁盛記』では、パリ出発の日の腹痛のご様子やスーツケースがなくなるお話、家の水漏れ事件なども綴られています。整った環境の日本と違い、パリだと予想外の出来事もありそうですね?

 そうですね。思いがけないことがあっても、いろいろな方が助けてくれたり、ぎりぎりのタイミングで切り抜けられたり。私は運や縁に助けられているのだと思っています。パリでは、物流の点でも日本に比べたらかなり遅く届くことも多くて、電車も時間通りに来ないのが常です。余裕を持ったスケジュール感でいたほうがいいですね。

『杏のパリ細うで繁盛記』より

――お子さんたちの学校生活はきちんとスケジュール通りに進みますよね?

 学校もアバウトなんですよ。さまざまな人種の方がいるので、文化や宗教的なイベントがあると先生が来ないこともあります。最近驚いたことがあって、学校でお泊りの旅行があるのですが、同じ学年でもこのクラスは3日間、別のクラスは5日間と、先生の都合によって日数が変わるということもありました。そんなこともありますが、子どもたちはたくましく頑張っているなと感じていて。言語の面でも、学校ではフランス語、家庭内で日本語で話す環境のなか、よく身につけてくれています。

――同書には柴犬のヤマトの他、一緒にパリに移住した元保護犬の次郎、その後迎えたミックス犬のタオキ、スキッパーキのポチのお話なども登場します。杏さんにとって愛犬はどんな存在ですか? 

 ある意味、心に一番近い存在です。犬の知能は人間の3歳ぐらいだといわれていますが、子どもたちがその年齢を超えるまでは間違いなく、犬とのほうが意思疎通ができていたんですよね。子どもが夜泣きした時には、「今日も大変でしたね」というような感じで、私と一緒の時間を過ごして寄り添ってくれていたのが、犬たちでした。とくに育児の最初の頃は、ヤマトと次郎が大人と一緒の目線で子どもを育ててくれて、タオキとポチは子犬の段階から来たので子どもたちときょうだいとして育っていって。親の私にとっても、子どもたちにとっても、犬との暮らしにすごく支えられています。

『杏のパリ細うで繁盛記』より

20代の頃のエッセイとは文体も変化

――今回の2冊のエッセイをみなさんにはどんなふうに読んでほしいですか? 

 どちらも読んでいただけたら嬉しいですが、旅行する方は「子連れ旅」、暮らしぶりを見たい方は「繁盛記」と、気に入ったほうを読んでいただくのでもいいですね。あるいは、以前発売したエッセイと比べていただくのもいいかもしれません。前に個人でエッセイを書いたのは2016年に発売した『杏の気分ほろほろ』(朝日新聞出版)が最後で、20代に書いたエッセイと、今回30代で書いたエッセイでは、すごく文体の変化があると自分では思っていて。

 少し尖っていた20代では、ひらがなを多くして読みやすくする風潮に反抗して、なるべく漢字をひらがなで表記したくないという謎のこだわりが強くて(苦笑)。ある意味まっすぐさが出ているというか、頑張ろう!という気持ちが詰まった本になっています。30代の今回は、改行を適度に入れて余白も意識していて、ひらがなが多かったり、ビックリマークが多かったり。軽い文体にして読みやすさを重視しました。もしもこれまでの本も通して読んでいただけるなら、20代はこんな感じだった、30代だとこうなんだな、とそういう変化も感じ取っていただけると思います。

――以前「好書好日」では、映画「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」の公開前に杏さんのインタビューを掲載しました。当時、「漫画を読むと気分転換になる」とのことでしたが、現在、お気に入りの本を教えてください。

 やっぱり育児のエッセイ漫画は共感もできて好きですね。二ノ宮知子さんの『おにぎり通信 〜ダメママ日記〜』(集英社)や、東村アキコさんの『ママはテンパリスト』(集英社)がお気に入りです。フランスでも日本の漫画はよく読まれていますし、最近は電子書籍でも買えるので、時間がある時は読んでいます。

本人提供

――読書家の杏さんですが、フランスの書店にも行くことはありますか?

 あります。書店で毎回本を買うことはそんなにないかもしれないですが、どんなものが売られているのかは見ていますね。パリにはジュンク堂やブックオフといった日本の書店や古書店もありますし、日本のフリーペーパーが置いてあったりもします。年に3、4回は帰国するので、その時々に書店へ行って漫画や小説などを購入して、パリに持ち帰って読書を楽しんでいます。