耽美な世界観がよけいに笑いを誘う
――あらためて魔夜峰央先生の原作を初めて読んだ時の印象から教えてください。
GACKT ボクはもともと魔夜先生の作品が大好きで、ずっと愛読していたんですよ。映画の1作目も、魔夜先生からの指名じゃなかったら引き受けていませんでした。
杏 原作はギャグ漫画としても秀逸ですよね。でも、画柄がきれいで耽美な世界観だから、ギャップがあってよけいに笑いを誘うという、そのバランスが稀有な作品だと思いました。
――魔夜先生は「好書好日」のインタビューで「馬鹿馬鹿しいことをどれだけ真面目にやるかが面白い」とおっしゃっていますが、今回の続編はオリジナルストーリーとなり、関西が舞台。初めて聞いた時はいかがでしたか?
GACKT 予想の範囲内で……。麻実麗を演じるにあたっては、最初からずっと、魔夜先生の漫画『パタリロ!』に出てくる「バンコラン」というキャラクターのイメージがあって。それをどうやって崩していくか、というところからのスタートだったので、キャラクター作りそのものはそんなに難しくなかったです。杏ちゃんは原作にないキャラクターだったので、難しかったんじゃないですか?
杏 私は、大丈夫かな、と最初は懸念しました。というのも、滋賀県を背負う桔梗魁(ききょう・かい)役を演じているのですが、今まで滋賀には撮影で行ったことがあるくらいで。そもそも出身地でもありませんので、滋賀の方々が受け入れてくれるかなと。ただ、以前、武内英樹監督とは月9ドラマ「デート~恋とはどんなものかしら~」(フジテレビ系)でご一緒していて、もう一度お仕事がしたかったので、呼んでいただけてうれしかったです。
続編の話に「やめましょうよ」
――舞台が関西ということで、敵対する大阪府知事・嘉祥寺晃(かしょうじ・あきら)役を片岡愛之助さん、その妻である神戸市長役を藤原紀香さん、元大阪府知事役にはハイヒール・モモコさんが登場するなど、関西に縁のあるキャストが続々登場されて興味深く、私も大阪人なので、ちりばめられた小ネタの数々が笑いのツボに入りました。
杏 大阪があんなふうになっていましたが、大丈夫でしたか?
――エンタメ作品として楽しかったです。ところで、前作は大ヒットしましたが、続編ということで、プレッシャーや大変な面はありましたか。
GACKT 大変というよりも、続編の話が来た時に「やめましょうよ」と。リスクでしかないから、と一度断ったのですが、もう一度話が来て。
杏 映画のスタッフの方々もあきらめなかったんですね。
GACKT 「(二階堂)ふみちゃんはなんて言っているの?」と聞いたら、「やめましょうよ」って言っていると聞いて、やっぱりねと(笑)。
杏 コンプライアンスが厳しくなっている時代に、よくここまでやっているというような場面も多いですよね。
GACKT あれだけ埼玉をイジって成功したパート1があるから、今回もたぶん大丈夫だろうとみんな思っているかもしれないけど、関西の人間を敵にまわすと大変ですよ?(苦笑)
杏 同じ関西でも地域によって、何弁と何弁は違う、というようなこともありますし、その土地を知らない我々が、ご覧になった方に不快な思いをさせてしまうこともあるのかなと気になります。
GACKT そういう懸念もありましたし、当初続編のオファーを断っていたら、最後にキャストをそろえてプレゼンされて。「だめでしょう? こんなすごい人たちを巻き込んで」としょうがなく引き受けました。
「次は、奇跡は起きないよ」
――GACKTさんは、もともとアーティストとして歌を歌っていますね。表現するという意味では歌も演技も同じですが、お芝居をするにあたり心がけていることはあるのでしょうか?
GACKT 昔は“自分ではない登場人物になる”ことをすごく意識してやっていましたが、緒形拳さんと出会ったことで考えや演技の方法が変わりました。以前、NHKの大河ドラマ「風林火山」で緒形さんとご一緒した時に、「自分でないものにはなれない。それをやればやるほどメッキがはがれる」など、いろいろなことを教えていただきました。「自分の中にあるものを出していく。自分というフィルターを通して、感じたことを素直に出していくことが一番大切なことで、ないものは作れない」という教えを受けてからは、役について作り込むことはやるんですが、とにかく自分を通して出すということを意識しています。
――この「翔んで埼玉」シリーズは、ご自身にとって新境地に挑んでいるところがあるのでしょうか。
GACKT 続編もそうですが、1作目もかなりリスクの高いところからのスタートですよ。前作がヒットしたのは、運がよかっただけです。役者の力などではなく、たまたまご覧になったみなさんの心に刺さっただけで、「次は、奇跡は起きないよ」と言ってます。続編でも、こんなに多くのキャストを巻き込んで、なんてはた迷惑な作品なんだろう、というのが正直な気持ちです。
――そんな世界観に杏さんを引きずり込むということで……。
GACKT 本当にごめんなさいと。
杏 いえいえ(笑)。世界観といえば、エキストラの方も全員、衣装がありますし、規模が大きいです。現場に入るととても楽しくて。通天閣のシーンでは、実際に通天閣のお店のロゴ入りシャツ姿の店員さんが登場していたり。他にも実在する企業がたくさん出てくるので、大阪のみなさんは懐が深いです。
GACKT もしくは無許可でやっているかも(笑)。
本気のお芝居がさらにおかしい
――完成された映像をご覧になって、すごいなと思った点はありましたか。
GACKT いっぱいありますよ。事前の台本読みのタイミングで決まっていたキャストと、その後に決まったキャストとは違いがあって、知らない間に増えているんです。なので、映画のスタッフロールが流れている時に、有名な方たちのお名前を目にして「え!? どこで出てきた?」と驚いて。あとから登場シーンを聞いた時に、なんてことしてくれたんだと(苦笑)。
杏 よく受け入れてくれましたよね?
GACKT 本当に! でも、ボクからしたら、杏ちゃんもよく受けてくれたなと。
杏 ふふふ。キャストでは、愛之助さんと紀香さんがいなかったら、台本が大きく変わっていたんだろうと思いました。すでに台本に、お二人の実際のバックグラウンドやシチュエーションが全部織り込まれていたんです。そんな台本を許容して、オファーをお受けになられた懐の深さも感じました。
――杏さんは、初の男役でもありましたが、この映画ならではと感じた場面はありましたか。
杏 決起集会や、みんなで涙を浮かべながら抱き合う場面ですね。ちょっとセリフもおかしいところがありますし、でもみんな本気でお芝居していることがさらにおかしいというのは、やっぱりこの“翔んで埼玉ワールド”だからこそだなと。ちなみに差し入れは、サラダパン(滋賀県の名物)だったので、みんなでサラダパンを食べながら、滋賀に思いを馳せていました。
――そうそうたるキャスト陣が登場しますが、ご自身の演じる役以外で、印象に残っている登場人物はいますか。
GACKT ボクはもう、愛さん(片岡愛之助さん)演じる嘉祥寺晃のインパクトが強すぎました。とにかく演技が上手いんですよね。麻実麗と嘉祥寺晃は敵対する設定なのですが、実際に愛さんの演技を見て、「この人がこの役をやってくれるなら、映像が絶対にしまるだろう」と安心しました。きつい表現をしている場面がいっぱいあって、特に大阪は極悪人のように描く場面もあって、大丈夫か? と少し心配にもなりましたが……(苦笑)。でも最後に、たったのワンシーンで、「大阪の人って、いい人じゃん!」と解決させる場面があって。あの説得力のすごさは、愛さんだからこそできたものです。
杏 私は、アキラ100%さんが、お洋服を着られている場面が印象に残っています(笑)。他にもGACKTさんと同じくエンドロールを観て、「え? どこにいたのかな」と、もう一度答え合わせをするために観たくなりました。誰かと一緒に観たら「気づいた?」という話になる、すごく面白い作品です。
2人が一押しの漫画は
――GACKTさんは漫画やアニメがお好きで、実写化作品もたくさんご覧になっているそうですね。
GACKT ボクはただのアニオタですからね。
――漫画や小説など、これまでに一番心に残っている作品はありますか?
GACKT 人生で一番笑ったのは、漫画『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)ですね。
杏 私も『ザ・ファブル』は大好きです。
GACKT マルタ島からヨーロッパへ移動する飛行機の中で、漫画の全巻を一気読みしたんですけど、笑いをこらえられなくて、ひとりで不気味に笑う乗客になっていました(笑)。あんなに面白い作品が漫画にあるのかと思ったほど、大好きです。
ストーリーとして面白いものは他にも何作かありますが、ボクが漫画を読んでアニメを見て好きになったのは『亜人』(桜井画門、第1巻は原作・三浦追儺/講談社)ですね。設定が上手なことと、登場人物の名前がごく普通なのに特殊な能力を持っていて面白い。実際、『亜人』の実写化の際はオファーもあったんですが、タイミングが合わなくて受けられなかったんです。それもあって印象深い。
どの作品も、漫画のファンの方が味方になってくれないことも多いので、実写化はとても難しいですよね。そういう意味において、『翔んで埼玉』は、実写化で成績を残した良い作品ではないでしょうか。そこは誇りですよ。それ以外、あまり誇りはないですけど(苦笑)。でも、先日は現場に魔夜先生が来られて、帰り際に言われたひとことが強烈でした。「1作目は私の原作ですからいいですけど、2作目に私は関わっていないんで、責任はいっさい取りませんからね」と。
杏 とはいえ、続編も、お気に召されたようでした(笑)。手で“グッド”のポーズをされていたので。
GACKT 本心は誰にもわかりません…。
――杏さんは、現在日本とフランスの二拠点生活をされていて3児を育てるママでもありますが、読書家でもあるので、フランスの書店に足を運ぶことも?
杏 そうですね。「日本のどんな本がフランス語に訳されているんだろう?」と気になって、書店に行くと見てしまいます。日本の漫画もほぼフランス語に訳されて発売されているので、とても興味深いですね。
――最近、お気に入りの本はありますか。
杏 私も漫画を読むことが多いです。『違国日記』(ヤマシタトモコ/祥伝社)という漫画が最近完結していて、言語化しづらい、こぼれ落ちそうな感覚を的確に漫画として描いているところが、すごい世界観だなと思いながら読みました。
【好書好日の記事から】