1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 逆転劇も鮮やかなお仕事小説「松岡まどか、起業します」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

逆転劇も鮮やかなお仕事小説「松岡まどか、起業します」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『松岡まどか、起業します』 安野貴博著 ハヤカワ文庫JA 1342円
  2. 『瞬(まばた)きすら許さない』 ジョー・キャラハン著 吉野弘人訳 創元推理文庫 1430円
  3. 『忘らるる惑星(ほし)』 田中空著 新潮文庫nex 693円

    ◇

 一昔前までは、AIをモチーフに取り入れた小説はSFと呼ばれることが多かった。だが、AIの技術が日常生活の隅々まで入り込んできたことでSF感はグッと薄まった。今やAIフィクションは、まるでSFのような現実を生きる現代人を活写する、「現代小説」に近付いている。

 (1)は現職の国会議員でありソフトウェアエンジニアでもある著者が手がけた、異色のお仕事モノ。大手企業から内定取り消しを受けた主人公が、AIオタクとして培ってきたスキルを武器に、AIビジネスの会社を立ち上げる。挫折を重ねながらも、会社が大きくなっていくプロセスは説得力抜群。小よく大を制す、の逆転劇も鮮やかだ。

 (2)は長年の経験から来る直感を信じる女性警視正と、直感は完全無視でデータ重視のAI捜査官がタッグを組んで、未解決の失踪事件の捜査に挑む物語。原著が出版された二〇二三年一月当時は特異な設定だったかもしれないが、対話型AIが大幅な進化を遂げた今読むと、実際にこのような捜査が行われてもおかしくないと感じられる。

 (3)は進化したAIによる管理が徹底した結果、安全安心の社会が形成されたかに見える近未来の物語。記憶を改竄(かいざん)されたことに気付いた主人公に対し、AIが「敵」となって牙を剝(む)くのだが……。

 三作はいずれも異なる価値観を持った他者との共生がテーマとなっている。AIとは分かり合えない他者のメタファーなのだ。分かり合えないからこそ分かりたい、知ってほしいと心が動く。全ての希望はきっと、そこから始まる。=朝日新聞2026年3月28日掲載