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「千葉真一、南へ」書評 鍛錬と研鑽の先に見つけた精神

評者: 美村里江 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月25日
千葉真一、南へ: アクション映画魂と沖縄・台湾 著者:沖縄映画研究会 出版社:七月社 ジャンル:映画

ISBN: 9784909544476
発売⽇: 2026/02/14
サイズ: 13×18.8cm/320p

「千葉真一、南へ」 [編]沖縄映画研究会

 どんな映画も好きですが、「シャキッとしたい時」はアクション映画を観(み)ます。豪快な場面を純粋に楽しんできた少女時代。しかし役者になってからは、「アクション俳優」という存在そのものが放つエネルギーに感嘆し、さらに好きなジャンルになりました。
 本書はアクション俳優千葉真一の出演作から、沖縄と台湾に関連する作品を抽出。論考5章とインタビュー2章の構成となっています。作品の時代背景や政治面の解説も素晴らしいのですが、やはり役者としては、海外で「サニー・チバ」の名で知られた、人柄が垣間見えるインタビュー部分に夢中になりました。
 特に2016年、中島貞夫監督との沖縄での対談を収録した第2章。制作本数の多かった昭和後期、「勢い」で乗り切った撮影秘話の数々に、驚きと笑いが広がります。
 また書名から期待していた「沖縄やくざ戦争」の裏話。千葉さん演じる国頭正剛の死に様(銃撃を受け何度も回転、最後は転倒の反動からあわや倒立という、身体制御が光る唯一無二の絶命ぶり)についてのご本人の思い入れを知り、嬉(うれ)しくなりました。
 さらに、1980年代以降の時代劇衰退について。時代劇の醍醐味(だいごみ)とされる「勧善懲悪要素」はウェスタン映画由来であり、本来の「日本のチャンバラ」は全く異なる死生観だったそうで、これについては勉強し直そうと詳細をメモ。
 殺陣師(たてし)の入る撮影は出演のない場面でも見学させてもらう私ですが、当時の撮影に参加してみたかった、と痛感する話ばかりでした(ちなみに予算と人手の問題だけは時代を超えた共通項)。
 俳優以前、オリンピックを目指す体操選手であった千葉さんは、世界進出の前も後も、目の前のことに真剣でした。
 「コスパ・タイパ」とは対極の「鍛錬・研鑽(けんさん)」の先にしかない物語。アクション作品の根底を支える精神性は、覚えておきたいものです。 
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研究会は2017年設立。世良利和、名嘉山リサ、藤城孝輔の3氏をはじめ、映画監督、プロデューサー、批評家などが会員。