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「世界の名木と伝説図鑑」書評 変わらぬ安心感がよりどころに

評者: 田島木綿子 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月25日
世界の名木と伝説図鑑 著者:コリン・ソルター 出版社:原書房 ジャンル:科学・テクノロジー

ISBN: 9784562075881
発売⽇: 2025/12/16
サイズ: 26×2.2cm/224p

「世界の名木と伝説図鑑」 [著]コリン・ソルター

 世界の生きものと表現したとき、それは植物と動物に大別される。植物も生きものであり、自らは動かないという適応進化を経たに過ぎない。我々動物にとって動かない、つまり移動しないという選択は到底想像できないが、植物や木々はその戦略で数千年、数万年の歳月を生き延びてきた。
 だからこそ本書の随所で書かれているように、我々は木々に尊敬や畏怖(いふ)の念を抱かずにはいられないのだろう。圧倒的な生命力、存在感そして沈黙という潔さに。
 本書では58項目の名木と人類の歴史とのかかわりが紹介される。旅行ガイドブックとして小脇に抱えて世界を巡るのも一興だろう。一般に、実を結ぶ種はそうでない種より寿命が短いこと、幹が朽ちても根系が生き残り遺伝的に同じ新しい幹を生成する栄養繁殖など、生物学的な知識も盛り込まれている。
 ニュートンが重力理論を研究するきっかけとなった英国のリンゴの木は命をつないでいる。米国バージニア州ハンプトンにある奴隷解放宣言が最初に読み上げられた地のオークや、1520年のメキシコで、先住民との戦いに敗れたスペイン侵略軍のコルテスがもたれて涙を流したと伝わるアウェウェテなど、「歴史に名木あり」である。社会が変化しても有り続ける木々に我々は安心感や安堵(あんど)感を抱き、無意識に心の拠(よ)り所としているのかもしれない。
 米国の9・11テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルの瓦礫(がれき)から掘り出され回復したマメナシの話を読んで、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」を思い出した。
 2011年の東日本大震災による津波で流された「高田松原」の約7万本の松のうち、奇跡的に唯一残った木だ。海水の影響で枯死したが、今も復興のシンボルの一つとなっている。本書では紹介されていないが、この「奇跡の一本松」も名木に違いない。
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Colin Salter 英国の著述家。著書に『世界を変えた100の手紙』『世界で読み継がれる子どもの本100』など。
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大山晶訳